いまは梅雨の季節。そして日本の文化と切り離せない植物、梅。梅園を散策しては花を愛で、その香を楽しむ。そして春が来たことを喜ぶ。夏が来て、梅の実を採り、少しばかり手間がかかるが、その保存のきく利用価値の高い梅の実を加工し、味わう。薬としても、またその樹は染色にも大事な役目を持って、人は古くから付き合ってきました。
桜の花見はことさらしなくても、梅の花見はしたいものと毎年思います。ちなみに、ここ山形では梅も桜もほとんど同じ頃に花を咲かせます。
文化として歴史的にみても、梅のこととなれば中国になります。料理でも、古くから塩とともに梅が調味の中心だったようです。日本には遣唐使によって薬として渡来したとか。
日本にも中国にも梅にまつわる興味深い話題はたくさんありますが、ここは梅干しなど食べ物のことを。
梅干しは好きで毎日1個は食べています。現代の中国には日本ような塩だけの梅干しはあるのでしょうか、一般的な干し梅は甘くしてあるようです。外国人がもっとも食べられない日本の食べ物が梅干しと聞いたことがあります。まあ、あの塩と酸味の刺激の強さは、めったにない珍しい食べ物であることは確かです。
日本では減塩ばやりで、梅干しもだいぶ塩分が減ってきました。塩分が10%もないような梅干しを食べるようにもなっているようですが、ウチでは塩分18%にしています。保存のためには20%はあったほうがいいようですね。しばらく前は25%前後、江戸時代は30%ともいわれます。ただ、この割合も、塩はしっかりミネラルを含んだ自然塩を使っての前提でしょう。いわゆる工場で作られた食塩(精製塩・塩化ナトリウム)には、他のミネラルはほぼ含まれていないので注意しなければいけません。
梅干しを自分でも漬けるようになったのは、このごろになってのことです。今年は友人から「梅もぎ(採り)」に誘ってもらったので、思いもよらぬ大量の梅を手に入れることができました。今回の梅の画像は、採った青梅を梅干し用に少し置いて追熟させ、やや色づいてきたものを撮影しています。(なんでも、今年は全国的に梅の実があまり生らなかったらしい)
主に梅干しにしましたが、他にもあれこれ加工をして梅を利用した保存食を作ってみました。カリカリ梅や甘めの梅味噌に梅醤油。梅味噌は味噌と砂糖(ウチは粉黒糖で)を梅を詰めた瓶に入れ、常温に置いて徐々に水分がまわってくるのを待ちます。1日1回かき混ぜて2週間ほどで完成。発酵しているのでその後は冷蔵庫に。ナス焼きなどに田楽味噌風に使ってもとてもおいしい。
そんな中でとりわけ便利でおいしくて、毎日重宝している「梅のペースト」を今回紹介しようと思います。 梅干しをつぶしたしょっぱいペーストでも、梅ジャムのような甘いペーストでもない、梅の果肉だけを煮詰めたペーストです。塩も、砂糖も入っていないので保存は長くききません。3ヵ月ほどなら冷蔵庫で。冷凍すれば1年は大丈夫なようです。
<梅のペースト>
果肉をはずしやすいので、まだ硬い青さのある梅を使いました。
- ⚫︎梅のヘタを竹串などで取り除き、水で洗ってそのまま数時間水に浸してアクを抜く。ザルに上げ、乾いた布で水を拭き取るか、風を当てて乾かす。
- ⚫︎梅を割り、種と果肉を剥がします。効率が良かったのは、まな板の上に梅を1個置き、もう一枚のまな板で上から体重をかけて押しつぶす方法。果肉が割れて、種が簡単に取れるようになります。
(種はガラス瓶に入れ、かぶる程度の醤油で浸し冷蔵庫へ。魚などにも合う梅醤油に) - ⚫︎果肉をホウロウの鍋または土鍋で加熱する。弱火から中火の間ぐらいの火に掛けますが、何も入れていないので最初とても焦げやすいです。焦げを防ぐため日本酒を大さじで1、2杯。火加減も弱火にして、常にかき混ぜ焦げないよう注意しながら加熱します。熱がまわってくると梅の水分が出てきます。徐々に水気は少ないながらも、全体がグツグツいってきます。やわらかい梅のペースト状になるまで、火加減とかき混ぜることに気をつけながら、30分から45分ぐらい。
- ⚫︎そのままで完成でも構いませんが、粗熱がとれたら、ブレンダーやフード・プロセッサーにかけ滑らかなペーストにして出来上がり。
殺菌したガラス瓶に入れ冷蔵庫で保存(3、4ヵ月)。それ以外はチャック付きビニール袋に薄めに入れ、空気を出し、冷凍庫へ(1年間は保存可能とか。さらに長くても大丈夫だと思いますが、また来年作ればいいでしょう)。
今回は40分ほどで終えていますが、さらに長時間続けていくと黒く煮詰まり、いわゆる万能薬「梅肉エキス」となるようです。
この「梅のペースト」の利用法です。無塩、無糖なので、ほかの調味料と混ぜて使います。味噌と合わせて生のキュウリにつけて。サラダなどのドレッシングや肉料理のソースに。蜂蜜で甘くしてパンに。和え物や酢の物に加えて、梅風味に。
飲み物に使って気に入っているのは、この暑い盛りの畑など、外仕事の際の飲料水にペーストをこのまま少し溶かしておきます。氷がたっぷり入った冷水でなくても、清涼感もありおいしく感じます。
梅干しなど手作りの漬物類が手に入りにくくなってしまいました。
道の駅や最寄りの直売所のお店で梅干しを購入してきた消費者が多いと思います。近くの農家や長年の経験で腕を磨いてきたお母さんたちが作って、店頭に並べてきたものがほとんどです。
この6月からは食品衛生法の改定により、製造設備が整えられていない作業場所で作られた加工品には、許可がおりずその販売は不可能となりました。条件を満たす設備を整えるのは、予算的に容易なことではありません。泣く泣くやめてしまうしかありません。手作りの漬物だけではありません。漁民の方の作っていたアジやサバの干物なども対象となります。
加工業者で設備に問題がなくても、長年繰り返し魚を漬けては干物の旨みを出す、多くの生きた酵母菌が作る発酵液。それが不衛生だとのことで、保健所に廃棄を命じられています。これら手作りの食品が、これまでの食生活の中でどれだけ健康に害を及ぼしてきたというのでしょう。資金もあり製造設備が整えられた企業の食品の方が、さまざまな健康被害の起因になっていますし、さらに今後も増えるでしょう。海外で作られた「衛生的な」梅干しが輸入されて、店頭に並ぶことでしょう。
まあ、みなさん「減塩」が好みですから、保存料など食品添加物を使っていない食品は傷みやすいこともあるかもしれませんね。それよりも食べるこちら側、消費者の方の健康状態、体質の劣化が問題かと思いますが。
国のやることは、近ごろすべてがこんな調子です。何はともあれ、食べたいものは、作れるものなら自分で作って食べることです。
フロントイメージ
バックナンバー
- マイタケ 〈#53 2024年11月〉
- ウメ 〈#52 2024年7月〉
- ウド 〈#51 2024年4月〉
- レンコン 〈#50 2024年1月〉
- トウガラシ 〈#49 2023年10月〉
- ニンニク 〈#48 2023年7月〉
- タケノコ 〈#47 2023年4月〉
- 雪菜 〈#46 2023年1月〉
- ダイコン葉 〈#45 2022年10月〉
- ニガウリ 〈#44 2022年7月〉
- コゴミ 〈#43 2022年4月〉
- ソバ 〈#42 2022年1月〉
- サツマイモ (#41 2021年10月)
- キュウリ (#40 2021年7月)
- 菜の花 (#39 2021年4月)
- キクイモ (#38 2020年12月)
- トウモロコシ (#37 2020年9月)
- ズッキーニ (#36 2020年6月)
- そら豆 (#35 2020年3月)
- キクの花/もってのほか (#34 2019年12月)
- シシトウ (#33 2019年9月)
- サクランボ (#32 2019年6月)
- ウルイ (#31 2019年3月)
- カリフラワー (#30 2018年12月)
- オクラ (#29 2018年9月)
- ゴマ (#28 2018年6月)
- 大豆 (#27 2018年3月)
- マルメロ (#26 2017年12月)
- ニンジン (#25 2017年9月)
- アスパラガス (#24 2017年6月)
- ホウレンソウ (#23 2016年12月)
- キャベツ (#22 2016年6月)
- タマネギ (#21 2016年3月)
- カボチャ (#20 2015年12月)
- アケビ (#19 2015年9月)
- アボカド (#18 2015年6月)
- レンズ豆 (#17 2015年3月)
- セリ<芹> (#16 2014年12月)
- ミニトマト (#15 2014年9月)
- オカヒジキ<陸鹿尾菜> (#14 2014年6月)
- アズキ<小豆> (#13 2014年3月)
- ビーツ (#12 2013年12月)
- ジャガイモ (#11 2013年9月)
- サヤエンドウ (#10 2013年6月)
- アサツキ<浅葱> (#09 2013年3月)
- カブ<蕪> (#08 2012年12月)
- 青豆(枝豆) (#07 2012年9月)
- ニンジンの葉 (#06 2012年6月)
- キドニー・ビーンズ (#05 2012年3月)
- 里芋 (#04 2011年12月)
- 畑の雑草 スベリヒユ(#03 2011年9月)
- カヤの実(#02 2011年6月)
- ひよこ豆(#01 2011年3月)