キュウリ(胡瓜・黄瓜)は、インド北西部ヒマラヤ山麓が原産といわれ、古くから世界で栽培されてきました。夏には、そのみずみずしさを食すべく生でかじったり、サラダには欠かせない野菜の一つです。また、よく育ってたくさん生るので、保存用の漬物として利用されるのも世界共通です。
和食では、キュウリを使った酢の物が夏の食卓に涼しさを添えてくれます。
キュウリの酢の物で「きゅうりびき」という山形の郷土料理があります。もともとは大きくなりすぎたキュウリの外側の皮を剥き、身だけを薄く輪切りにして塩水に浸し、絞ったものを甘酢につけたものです。お盆のお供えとしても上がります。
でも、キュウリの火を使って調理したおかずはなかなかなく、食材としては楽しみ方の種類が少ないのが残念です。それでも、このごろ気に入ってたびたび作って食卓に上る惣菜が「キュウリの炒めナムル」です。
《キュウリの炒めナムル》
・キュウリは薄い輪切りに。2ミリぐらいで作っていますが、お好みで。スライサーを使ってもかまいません。
・塩を振ってしばらくおきます。15分ぐらい。
・水が出ますので軽く絞ります。ペーパータオルなどでより水けを除いてもよいでしょう。塩気を見て、しょっぱいようなら一度水に浸してから絞ってください。
・ごま油で炒めます。焦げない程度の強火。弱い火では柔らかくなってしまいます。
・キュウリに油と火がまわっていい具合になったら、調味料を加え、できあがりです。
・調味は、最初の塩の具合で、加える塩や醤油を加減してください。あとはお好みで、酢、黒酢。甘いのがよければ砂糖。唐辛子、胡椒、ラー油など辛味も適宜。刻むかおろしたにんにくなども先のごま油といっしょに炒めれば風味が出ます。
・最後に炒りごまやすりごまを振ってください。
温かいうちでも、冷たくなってからでもおいしいです。次の日でもキュウリがパリパリで、味も時間をおいたほうがおいしいかも。
身近にある神社、山形県は
正確には、八幡宮境内にある小さな社、八坂神社のお祭りです。同じ山形の鶴岡市にある八坂神社でも同様のお祭りがあるようですし、日本各地の八坂神社でもきゅうりのお祭りがあります。
これは、ご存知の方も多いと思いますが、八坂神社の本社、京都の7月祇園祭の際に行われる祭事に類似したものです。
はてさて、ここで使われる供物はなんできゅうりなんだろう? 興味深いのでネットで探索をしながら、あれこれ思いを巡らせてみようと思います。
所によりやや相違もありますが、きゅうりのお祭りに関していくつか拾ってみます。
初なりのきゅうりを持っていく。きゅうりを二本持っていって、供物として上がっていたきゅうりを一本もらって帰り、それで身体をさする。さすったきゅうりは川に流すか、土に埋める。もらって帰ったきゅうりを食べる(鶴岡)。初生りのきゅうりには蛇が入っているから厄除けに川に流す(川崎市)。
ところで突然ですが、きゅうりといえば
河童はきゅうりが大好物です。昔から、子どもや馬が河童に引かれぬよう、きゅうりを捧げ物として川に流したりしてきました。河童は
話を戻して。京都の祇園信仰も水神との関連があるようで、祇園の龍神や蛇、また河童と、きゅうりを介しての「水」との関連性が想像できます。
では、この「祇園」のことです。祇園祭の八坂神社は、明治維新時の神仏分離の際に改名されたものです。元は祇園社という名称でした。八坂神社のご神体はスサノオノミコトとされていますが、祇園社では
牛頭天王とは、
「本来はインド祇園精舎の守護神だが、わが国では祇園社(京都市東山区の八坂神社)に祭られ、素戔嗚尊(スサノオノミコト)に同一視されている。祇園社は、貞観18(876)年に藤原基経が疫病を鎮めるために牛頭天王を祭って造営したもので、……」(朝日日本歴史人物事典)。
頭が牛でとっても怖い、インド生まれの神様です。除疫神としての神格を持ちます。
「きゅうり天王さま」の「天王」は、この牛頭天王を指しているわけです。
明治維新前は神仏習合でしたから、神も仏もごっちゃになって人々を守ってくれていました。神仏分離後、神社ではスサノオノミコトを祭神に「きゅうり天王祭」が執り行われますが、一方の仏教でも同様の厄病除けの祈禱が行われています。こちらは「きゅうり封じ」「きゅうり加持」などと呼ばれます。
「きゅうり封じ」は、空海(弘法大師)が約千二百年前に中国より伝えた厄除けの秘法で、病魔悪鬼をきゅうりに封じ込め、病やケガを癒し、無病息災を得るとされます。弘法大師を開祖とする真言宗のお寺などで、土用の
空海は、疫病や水害を鎮めるためこの秘法を伝えたとあります。大きな水害があればそのあと疫病もやってきます。祇園社の造営にしろ、空海の秘法にしろ、例年起きていたであろう水害と千年以上前の大きな疫病禍を鎮めるためだったのだと想像します。
キュウリはその95%が水で、きっと古くから人の水分補給にも役立ってきたことでしょう。人が口にすることができる食べ物キュウリの水を通して、水神を畏れ敬い、水害また逆の
いまだにCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)禍から解放されていません。毎年のように大きな水害が各地で起こります。キュウリにそれを抑える力があるわけではないですが、夏になると、畑のキュウリがよく生ってよく食べて、野菜の直売所にも、食卓にも、漬物桶にも、あふれるばかりに並ぶキュウリが、疫病や水害や旱魃への怖れの、長い人の歴史を表しているようにも思えてきます。
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