セリは、緑の野菜の少ない北国の冬の食卓には欠かせない野菜です。宮城県はセリの出荷量が全国1位だといいますし、秋田の郷土料理きりたんぽ鍋にはセリです。
セリは春の七草のひとつで、正月の雑煮や七草粥にも入れます。
以前は田んぼの畔などでも自生するセリを見かけましたが、現在では少なくなりました。セリの露地栽培は「セリ田」という水の深い田で、地下水などのきれいな水を引いて栽培をするそうです。寒い季節の、膝上まで水に浸かりながらの収穫作業は新聞などでもよく紹介されます。
セリは、和食の食材としてはそう種類の多くない香味野菜(ハーブ)のひとつ。セリ科の植物は料理のだいじな風味をつくり出し、薬効のある植物として世界中で利用されています。ニンジンがそうですし、セロリ、ミツバ、コリアンダー、フェンネル、クミンなどなど、多くのハーブ類がセリ科の仲間です。
ここ山形の野菜売り場のセリは、主にどのようにして食べられるかといいますと、納豆汁です。冬の山形の代表的な汁ものといえばこれです。そこでセリは、冬の貴重な新鮮な緑と、納豆の匂いを和らげてもくれるだいじな材料となります。
納豆汁は山形ではごく一般的な冬の料理で、正月の七草には七草粥の代わりに、セリをのせた納豆汁を食べる風習もあるくらいです。
納豆汁の作り方を紹介する前に、納豆のことをすこし。
納豆は、冬食べるものが少なかった北国の農家にとって、わりあい簡単に作ることができる、だいじな食べ物だったと想像できます。秋に収穫した大豆と刈り取った稲わらがあれば、納豆を作るのはそう難しいことではないでしょうから。
いまでもわらで納豆を作っている家庭はほとんどないでしょうが、山形は納豆をよく食べるほうだと思います。それぞれの町には1軒や2軒の納豆屋さんがきっとありますし、スーパーマーケットでも地元の納豆を置くところがほとんどです。
ご飯に納豆はもちろんですが、柔らかいつきたての餅も季節にかかわらず山形ではごちそうで、そこでは納豆餅が定番。また納豆汁とともに、冬によく食べられてきた「ひっぱりうどん」というものもあります。茹で湯に浸ったあつあつのうどんを納豆のつけだれで食べます。
では、冬の山形の郷土料理「納豆汁」です。
《納豆汁》
汁の身になる材料は、
・豆腐
・こんにゃく
・油揚げ
・芋がら(乾燥ずいき)
です。
いまほど多くの食材がなかった昔の冬の山形でも、これはあったでしょう。基本の材料はこれだけですが、いまはごぼう、ニンジン、里芋などの根菜類やなめこなども加えたりします。
それに。
・納豆
・みそ
・だし
日本の加工食品の歴史の粋を集めたようなラインナップです。
そして。
・ネギ
・セリ
芋がらは湯に浸けてもどし、他の材料もすべて1センチくらいのさいの目切りにします。
芋がらはなかなか手に入りにくくなっているかもしれません。なくてももちろん構いません。
豆腐以外の野菜など、具材をだし汁で柔らかくなるまで煮ます。
その間に納豆をすり鉢でペースト状になるまで、すりつぶします。
さらに味噌を加えて、すります。
納豆の量はだしの量が500mlなら50g、1ℓなら100g程度でしょうか。
具材が煮えたら、すり鉢の納豆に鍋の煮汁を加えてややゆるくしてから、鍋に溶き入れます。
豆腐を入れ、沸騰する間際に火を止めて出来上がりです。
椀に盛ったら、上にネギのみじん切りと刻んだセリをたっぷりのせて、やけどをしないように気をつけていただきます。とても熱いですからね。

ところで、この料理、“納豆をすり鉢でする”というのが納豆汁を知らなかった人にとっては、いや、納豆汁が好きな人にとっても、大きなハードルとなるところです。
そこで、山形では「納豆汁の素」というものが売られています。ほとんどの納豆屋さんで商品化していて、単に納豆と味噌のブレンドをペースト状にしたものですが、これなら手軽に納豆汁が作れます。
見た目にはそう美しくない汁にはセリの緑が、そしてセリの香りがやっぱり必要でしょう。納豆嫌いの人は食べたいとも思わないでしょうけれど、ネギとセリで案外納豆の匂いは気にならなくなります。納豆の食感は消えていますし、もちろん糸も引きません。もともと納豆の嫌いな人が、納豆汁を食べ、そのおいしさに納豆そのものも好きになったとの話も聞きました。
特に納豆好きの方、お試しください。
先人の日々の暮らしと、食の知恵と歴史が凝縮されたような、一椀です。
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