北国のアスパラガスは初夏の野菜。陽差しが強くなるにつれて、山々や田んぼの苗も緑が濃くなり、あたりの草も競うようにグングンと伸びてきます。その植物の生命感、その生長の勢いも食べているような気になるのがアスパラガスです。
朝、きのうは気づかなかった手ごろに育ったアスパラガスを、根元からポキッと音をたてて折る。さっと茹でて食卓に。透明感のある鮮やかな緑になったそれは白い皿に映えます。
このアスパラガスを店先に並ぶ野菜としてしか目にしたことのない人は、畑の片隅で大きく生長した姿に、「これがあのアスパラガス?」と驚くかもしれません。細いこまかな葉で、立ったまま子どもも隠れることができるほど大きな緑の株をつくります。小さなころから、丸い実のついたこのホワホワの丸みのある姿が好みです。
まだ家のそばにもホタルがいた、子どものころの思い出です。ホタル採りをすると、ガラス瓶にアスパラガスの葉と何匹かのホタルを入れ、その夜は暗くした枕元に置いて、寝るまで眺めていたものです。その当時、この葉がアスパラガスとは知りませんでした。缶詰のホワイトアスパラは食べることもありましたが、新鮮な緑のアスパラガスは食べた記憶がありません。日本では観賞用に植えられたこともあるようですし、どうだったのでしょう。調べてみると、日本でグリーンアスパラが主流になったのは昭和40年代からだそうですから、やっぱり食べてなかったと思います。
ちなみに、アスパラガスの葉は退化していて、ここで葉といっているものは、茎の変化したものだそうです。
アスパラガスの和名はオランダキジカクシ、オランダウドなどと呼ばれます。植物分類では、キジカクシ科クサスギカズラ属になります。漢字にすると、雉隠科草杉蔓属。キジカクシはなかなかいい表現です。
ヨーロッパでは、古代のエジプトやギリシアの時代から食べられてきたそうですが、絵画の中にもアスパラガスが描かれることがあって、むかし絵の勉強を始めたころは、不思議にも思い、記憶にも強く残ったものです。17世紀オランダの静物画に多く、食べ物が台所のテーブルに載った食卓画としてだけではなく、アスパラガスだけが描かれることもあります。当然いろいろな理由があるわけですけれど、まあ、やっぱり、セクシャルな象徴としても描かれたと解説されています。媚薬としての薬効も言われていたようです。
すこし下品になりましたが、一夜にして驚くほど生長するアスパラガスの生命力を食べることは、きっと古代から変わらぬ、人と食べ物の付き合い方をあらわしているように思います。媚薬としてはどうかわかりませんが、古くから利尿作用や疲労回復などの効果があるとされています。
Still Life with Asparagus / Adriaen Coorte 1697
アドリアン・コールト 「アスパラガスのある静物」(1697)
アムステルダム国立美術館
今回はアスパラガスを使ったレシピといえるようなものはありません。
茹でてマヨネーズで食べる人も多いでしょうし、牛肉で巻いてフライパンで焼いたのもよくあります。わたしがおいしいと思うのは焼きアスパラガスです。
新鮮なアスパラガスを焼き網やグリルなどで、ただ焼くだけです。
いい具合に中に火が通って、コゲ目も過ぎない程度についたアスパラガスに、塩とオリーブオイルや溶かしバターをさっとかけて。醤油でもいいし。
この季節の野菜は焼くと本当においしい。アスパラガスのほかにも、カブを厚めのくし形切りにして、ブロッコリーは大きめに切って焼いて食べてみてください。
画像のよりもう少しコゲ目がついてもいいと思います。またこの時は切って焼きましたが、切らずに1本のままの方がいいかもしれません。
付録は冬のアスパラガスです。
これはずいぶん前に雪中のアスパラガスを撮影したものです。枝は雪の重さで折れかかっています。赤いアスパラガスの実が雪の中でとてもきれいです。
フロントイメージ
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