初夏を迎えた畑に、赤や白のかわいい花がついた支柱にからまる緑の列が見られます。この季節の食卓に欠かせないサヤエンドウです。
絹サヤともいいます。いかにも日本料理に合った呼び方になっています。
植物の名前としては、エンドウ、またエンドウマメといいますが、実の大きくならないうちにサヤを食べるのがサヤエンドウ。グリンピースやスナップエンドウもエンドウの仲間です。
爽やかできれいな緑の、気持ちのいい歯ごたえのあるサヤエンドウの味は、これから暑くなって出回るキュウリやナスなどの本格的な夏野菜の露払いのような、初夏の味です。
子どもの頃、まず最初に料理の下ごしらえの手伝いをさせられたのが、このサヤエンドウの筋をとることだったと記憶しています。
サヤエンドウを縦に持って、端を折り背に添って引っぱると、くるくると丸まった筋を取ることができます。うまく取れると気持ちがいいし、わりに好きな手伝いでした。
背の方はうまく取れたのに、反対側の腹の方は途中ちぎれてしまったり。筋を取るには子どもなりに手加減も必要だし、出てきた味噌汁の中のサヤエンドウにも少し関心が向いたものです。
ところで、サヤエンドウの筋は背だけ取ればいいとも聞きます。
生長の具合や種類でも違いはあるでしょうけれど、ウチでは両方を取っていました。
サヤエンドウの料理に、かかりましょう。
サヤエンドウはしゃきっとした歯ざわりときれいな緑が命です。シンプルに調理して食べるのが好きです。
今回は、料理研究家の辰巳芳子さんの本に見つけたサヤエンドウの調理法をご紹介します。(『味覚日乗』ちくま文庫)
レシピというほどの大げさなものでもない、ただサヤエンドウを食べるだけのものです。その本の美しい緑に映った茹でたサヤエンドウの口絵写真に眼を引かれ、これは作って食べてみたいと思ったのです。
サヤエンドウだけたっぷり食べるものなので、安く豊富に出回る季節を待って作ってみました。
「絹莢のバタ炒め」です。
びっくりしました。想像以上のおいしさでした。サヤエンドウを食べるならこれに限ると、その時以来決まりました。
本では「バタ炒め」となっていますが、炒めるというのとは少し違います。「バタ和え」といったところでしょうか。
作り方の書かれている部分、その全文です。
「図の如く、鍋に茹野菜、バター、塩。忘れてならないのが、少量の湯又は水。水分のおかげで、炒めるというより、バターをまぶした状態のもの、ふっくらとした温製になります」
「図」とある1枚の口絵写真についてと、わたしなりの無粋な説明を補足します。
口絵写真は、鍋に200gぐらいの茹でた絹サヤ(サヤエンドウ)。そのきれいな緑の上にひとつまみの塩がのっています。さらに小さい四角いバターのかたまりが二つのっています。その上からレードル(ステンレスのおたま)で水が少しだけスーッと注がれているところ。
茹でた絹サヤは、塩を加えた熱湯でさっと茹で、冷水にとり色よく上がったもの。塩はサヤエンドウとバターの量にもよります。一度作ってみてから好きな塩加減を決めてください。
少量の湯または水を入れてから、コンロの火を点け、箸でざっとかき混ぜ、溶けたバターが全体にまわり、サヤエンドウが温まったら出来上がりです。
この時、先に入れた湯が溶けたバターと混じって、下にたっぷり溜まっているようだと、水の量が多かったということになります。湯や水は、多くても大さじ1から2ぐらいなものでしょう。
辰巳さんはこのわずかな水がこの料理ではとても大事と言っているわけです。バターで炒めたようにならぬようにと。
洋風の献立にも当然合いますが、バターで引き立った絹サヤの味はやはり和の食卓に合うのです。
![絹サヤのバター炒め](../images/no_70/kinusaya01.jpg)
山形に引っ越してから二度めの夏を前に、実家の畑で少しばかり野菜やハーブを作り始めた。
堀 哲郎
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