トウモロコシです。トウモロコシは、古代から南北アメリカ大陸で主要な穀物として栽培されてきました。1492年、アメリカ大陸を発見したコロンブスが持ち帰り、ヨーロッパでの栽培が始まったとされます。その後急速に世界中に
生のトウモロコシは醤油の焼きトウモロコシがおいしいですが、これは昔からのもっちりしたトウモロコシに合うようで、近ごろの品種改良の進んだ甘くやわらかいトウモロコシは、茹でて食べるのに向いているような気がします。コーンスープがおいしいですが、これも生のトウモロコシから作るとなると手間もかかります。そこでウチでは、簡単でおいしいトウモロコシご飯が食卓に上ります。
「トウモロコシご飯」
2合の米にトウモロコシ1本。
トウモロコシは半分に切ってから、包丁で縦に粒をそぎ落とします。
調味料は塩のみ、小さじ1〜1と1/3。
トウモロコシと塩を入れて普通にご飯を炊くだけですが、これはインターネットの中にあったレシピのひと工夫、粒をそいだトウモロコシの軸をギュッと米に中に押し込んで一緒に炊いてみてください。ちょっと風味がよくなります。
醤油を加えたり、バターとコショウで洋風にしたり、アレンジもいろいろできますね。
日本の家庭ではあまり料理として食卓に上らないトウモロコシですが、その日本は世界最大のトウモロコシ輸入国で、年間の輸入量はコメの国内年間生産量の約2倍に相当するそうです。輸入したトウモロコシ1600万トンの約77%は家畜の飼料になります。牛、豚、鶏、養殖の魚も餌にトウモロコシを使うらしいですから、われわれの食卓でもコメより多いトウモロコシを消費していることになるでしょうか。
トウモロコシは、飼料のほかさまざまに加工され消費されます。
人が食用として直接口に入れるのは世界消費量の4%にすぎませんが、トルティーヤなどトウモロコシ粉を主食としているところもありますし、ポップコーンほかスナック菓子、ウイスキーやビールなどの酒にも。サラダオイルに使われるコーンオイル、コーンスターチ(デンプン)、そのコーンスターチからは清涼飲料水やアイスクリームなどの甘味料であるコーンシロップも作られます。
トウモロコシの軸からは、甘味料のキシリトール、バクテリアなどが分解できる性質を持つバイオプラスチックも作られるようになりました。
近年注目されるのはバイオエタノールでしょう。バイオエタノールは酒と同様、主にトウモロコシやサトウキビから発酵・蒸留によって生成されるエチルアルコールです。
バイオエタノールのことを知るようになったのは、車のガソリンに代わる燃料としての、再生可能な自然エネルギー源としてです。地球温暖化対策の一つとも位置付けられています。また、需要の増加によるトウモロコシ価格の上昇、ブラジルにおける耕作地拡張のための森林伐採などの問題も、このバイオエタノールが元にあります。
2020年、今年のコロナ禍が発生して間もないころ、消毒用エタノール(これもエチルアルコール)が、店頭からなくなりました。その代替品として高度数の酒類やバイオエタノールが殺菌に有効と話題になり、一般のわれわれでも買えるようなものなのだと知りました。まもなくそれも、手に入れるのが難しくなった時期もありましたけれど。
ここで、最近公表された米国農務省海外農業局(USDA:World Agricultural Supply and Demand Estimates Report)のデータを見てみます。(データの数字は2020/21年度予測値です)
世界の全トウモロコシ生産量は11.6億トン。20年前の2001/02年度は6億トンでした。約2倍に増えました。
最大の生産国はアメリカで3.7億トン。アメリカ国内消費量3.1億トンの約47%は飼料になりますが、そのほかは「食品、種子、産業向け」に利用されます。その「食品、種子、産業向け」1.6億トンのうち、約78%の1.3億トンが燃料エタノール(バイオエタノール)に向けられます。アメリカのあの広大なトウモロコシ畑の作物の3分の1以上がバイオエタノールになる計算です。
エタノール燃料は、アメリカやブラジルではだいぶ普及も進んできているようですが、日本ではガソリンへのエタノール混合率が3%以内しか認められていません。EUや日本では電気自動車の方が人気のようです。
ガソリンに比べて熱量が小さいことや、人体に有害な窒素酸化物の排出、エンジン部品の腐食の可能性などもいわれます。石油業界からの圧力もあるでしょう。
また、バイオエタノール向けのトウモロコシの需要が、食料や飼料としてのトウモロコシの生産を圧迫するかたちになっており、食べ物として必要としている人たちへの供給が困難になりつつあることも問題視されています。
さらに環境に関わる問題としては、森林伐採・耕作地拡張の影響、水資源の確保、バイオエタノール生産のための遺伝子組換えトウモロコシの作付けならびに農薬・化学肥料使用の増加が考えられます。
石油に代わりエンジンも動かし、プラスチックにだって、もちろん主食にもなって、甘いお菓子や肉や魚にだって姿を変えられるスーパー植物トウモロコシ。それに1粒のトウモロコシから、数ヵ月であれほどたくさんのトウモロコシを実らせます。
このスーパーぶりには理由があり、20世紀後半になってわかってきたことで、トウモロコシ、サトウキビなどいくつかの植物はC4植物といって、他のほとんどの植物(C3植物)とは光合成のしかたがちょっと違うのだそうです。C4植物は高温や乾燥、低二酸化炭素、貧窒素土壌の、一般の植物には苛酷な環境下にあっても、効率よくエネルギーを蓄積できるめぐまれた特徴を持っています。
地球の温暖化がもし続くとしたら、人間や生き物が生きていくのはなかなか大変な環境となるでしょうけど、トウモロコシだけはへっちゃらで、人間の欲望を糧に増殖し地表を覆っていくことになるのでしょうか……。
今回は、アメリカの食や農のジャーナリスト、マイケル・ポーランの「雑食動物のジレンマ 〜ある4つの食事の自然史」(東洋経済新聞社)を参照しました。そこで彼はこんなふうに書いています。「食は人なり——体をつくるのは食べ物だ、とよくいわれる。それが本当なら、私たちアメリカ人の体は、まさに大部分がトウモロコシでできているということになる」
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