里芋 〈64号 #04〉
芋といえば、古くは里芋をさします。江戸時代になってサツマイモが江戸でも一般化し、ジャガイモの栽培が本格的に行われるようになったのは明治以降のことです。テレビなどでよく目にする熱帯アジアのジャングルで暮らす少数民族の食事をみると、タロイモを主食にしている人たちが多いようです。同種のイモで、寒い日本でも育つ種類のものが栽培されるようになったのでしょう。縄文時代から食べられてきたようです。
山形の料理で有名なものに「芋煮」(ウチでは「芋こ汁」と呼ぶ)があります。地域によってもすこし違いますが、一般的には、里芋と牛肉を使った醤油仕立ての汁ものです。秋の河原で頻繁に催される「芋煮会」もよく知られるところです。
東京の友人宅で、「芋煮」を作ってごちそうしたことがたびたびありますが、初めて口にする人でも結構おいしいと気に入ってくれます。その際に大事なことは、使う里芋は山形から取り寄せたあの芋を持っていくこと。同じ山形生まれの人間が出掛けて行って「芋煮」を作った話はよく耳にします。やっぱり山形のあの芋を持って作りに行くようです。
「芋煮」のおいしさはその芋にあると考えます。使う牛肉は懐の都合で輸入もので間に合わせたとしても、芋だけはあの芋でなければ。
山形でもさまざま種類の里芋があって、土垂れ(どだれ)芋とか 、悪戸(あくと)芋などの希少な芋も一部で栽培されています。
秋になり里芋が一斉に出回ると、山形では家庭でも河原でも「芋煮」を楽しみます。どのような芋かといいますと、粘りがあってまるでパテでもあるかのような柔らかい芋です。いわゆる芋の煮転がしや煮しめの食感とは少々違います。収穫からそう時間が経っていなければ、ふつうは皮を包丁でむきません。外側の毛羽立ったところだけを包丁を立ててカツカツと削ぎ落とすだけです。皮をむいてしまうと、柔らかいので煮た時に崩れてしまいますから。
そういえば、東京でも以前は八百屋さんの店先で、水を張った樽にたくさんの里芋を入れX形にした棒を回して洗い、白くなった里芋を売っていたものでした。夏の海水浴場の人出を、芋を洗う様と表現するのはこれからきています。
ところで、なぜ「芋煮」にしてまで大量の芋を食うか。芋は一度に収穫されます。それなのに南国生まれの芋は寒さに弱いので、北国ではそう長くは保存も利きません。悪くならないうちに食べてしまわねばならないから、このような食べ方がされるようになったのではないかと想像します。
では「芋煮」(「芋こ汁」)を作ります。この手の料理は、当然のことながら各家庭で作り方は違います。あくまでもウチの作り方です。
<材料>
里芋 牛肉 しらたき 長ネギ
これが基本。それと今回は冷蔵庫にあった舞茸を加えました。
調味料:醤油 酒 砂糖
このごろでは味醤油と呼ばれるだしの入った醤油がよく使われるようです。
<調理>
まず鍋で牛肉を適当な量の醤油と砂糖で色が変わる程度にさっと煮付ける。
その肉は鍋から引き上げます。
(牛脂があれば先に溶かしてください。)
洗った芋を鍋に入れ、多いぐらいのお酒と水は芋のひたひたよりやや多めに加え、芋が柔らかくなるまで煮ます。途中アクをまめに取ると仕上がりがきれいです。
ふつう里芋を煮ると泡立って吹きこぼれることもありますが、牛肉を煮付けた醤油のおかげでお湯が泡立つことはありません。
ほぼ柔らかくなったあたりでしらたきと舞茸(しめじなどでも)を加えます。
芋に菜箸が通るぐらい柔らかくなったら、最初の牛肉を戻し、汁の味を見て足りないようなら醤油、砂糖を加えます。
最後に大きめに切った長ネギをたっぷり入れ、蓋をしてひと煮立ちさせます。
これで完成です。
画像では汁の色が濃いのですが、これは使った醤油のせい。そう塩辛いものではありません。
初めて食べる人は、牛肉とネギ、使う調味料からも想像できるように、すき焼きの味に近いという方もいます。しかし、ここでの主役は芋です。里芋を本当においしく食べることができることうけあいです。
そして山形に戻ってきた。
堀 哲郎
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