オカヒジキはあまり馴染みのない野菜かと思います。
山形では昔からよく食べられてきたありふれた野菜です。5月から6月を盛りに出回ります。
もともとは海岸の砂地に自生している植物で、徐々に自生地は減っているものの日本全国の海岸で見ることができるようです。いまでは山形あたりでしか食べなくなったオカヒジキですが、江戸時代から栽培もされ、広く庶民に食べられてきた作物です。
海藻のひじきとちょっと似ているのでオカヒジキと名付けられたのでしょうが、そう良いネーミングではありません。海松菜(みるな)、水松菜(みずまつな)などの別名があります。
分類としてはホウレンソウなどと同じアカザ科の一年草。栄養的にも優れているそうで、生でも冷蔵庫でわりあい長く保存でき、栽培するにも虫がほとんどつかず育てやすい作物です。
じつはこのオカヒジキ、他の地域ではあまり一般的ではない野菜なので、ここで取り上げる予定はなかったのです。でも、この春、近くのJA直売所の棚でオカヒジキを見つけ、「そろそろそんな季節か」と袋を手にとり、「あれっ?」と思いました。葉の姿は毎年この時期になると見かけるオカヒジキですが、付いている名前は「アグレッティ」。「わっ、かっこいい名前! イタリア語じゃん」。
どちらかといえば他の葉もの野菜に比べ粗末な扱いをしてきたオカヒジキが、「アグレッティ」で高級食材の雰囲気を醸しています。
山形産の野菜も、名前の付けようで印象も変わるものだと思いながら、値段は例年のオカヒジキ同様安いし、ひとつ購入。
家に帰って早速「アグレッティ」を調べました。驚いたことに、これはれっきとしたイタリア野菜なのです。山形の田舎でしか食べない、ことさらおいしいわけでもなく、歯ごたえがいいからと、茹でてカラシ醤油をかけておひたしにして食べていたあのオカヒジキが、イタリアではアグレッティと呼ばれパスタやキッシュになって食べられていました。
アグレッティの他には「修道僧のひげ(Barda di Frate)」という名前ももらって、高級野菜の扱いだそうです。
あらためて買ってきたものを見ると、見慣れたオカヒジキよりも葉がやや太く、なるほど長いひげのようにきれいに揃った形でどこかしら風格もあります。
食べてみると、オカヒジキより味にすこし厚みがあっておいしいように思います。
これを知ったあと、実家の畑でできたオカヒジキの食べようも、いつものおひたしだけではなく、あれこれ工夫をしていろいろな料理で楽しみました。
紹介するのは、定番の「オカヒジキのおひたし」と初めて作った「オカヒジキのパスタ」にします。
《オカヒジキのおひたし》
オカヒジキの、山形でもっとも一般的な食べ方です。
オカヒジキはその若葉を食べます。
茎の元の方は固いので食べません。柔らかい葉の方をさっと茹でて冷水にとります。
食べやすい大きさに切って、カラシ醤油でいただきます。
くせのない味でシャキシャキとした歯ごたえが特徴です。
もちろんドレッシングでサラダにも。
《オカヒジキのパスタ》
シンプルなパスタにしてみました。
フライパンに、アンチョビとニンニクと鷹の爪をオリーブオイルで熱します。
パスタを茹でている鍋に、パスタの茹で上がり間際にオカヒジキを入れ、パスタと一緒にフライパンに。
茹で汁でソースを調整しながら、塩加減をみて、塩こしょうして仕上げのオリーブオイルで出来上がりです。
オカヒジキの味が消えてしまいそうでパルメジャーノ(粉チーズ)を使いませんでしたが、その後あれこれ作ってみて、オカヒジキにはパルメジャーノが合う気がします。
とくにオカヒジキのサラダは最後にパルメジャーノを振るとおいしい。
名前の違いがきっかけで、昔から食べてきた地味な食べ物が世界の食卓の食材となって、はじめてのレシピで調理し食べる。こんなことも料理をする楽しみのひとつです。
日本の食料自給率低下やTPPが問題とされている今、大手スーパーの野菜売り場では、ごく日常的に使われる家庭料理の野菜も輸入物が並べられています。
一方、ちかごろ山形では、あらたにイタリア野菜の栽培を手がける農家が増えています。レストランの協力もあるようです。生き残りのための農家の苦労を感じます。
「アグレッティ」が、同じ場所で江戸時代から栽培されつづけてきた「オカヒジキ」生き残りのためのアシストとなればいいな。
─── 自分のことは自分で守るしかないようだ。
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