アズキは東アジア原産で、日本列島にもその原生種が自生していました。縄文時代の遺跡からも調理用の土器とともに炭化したアズキが見つかっています。その縄文時代から一万年ほど時代の降った頃に書かれた『古事記』にも、スサノヲに殺されたオオゲツヒメの鼻からアズキが生えてきたとあります。いわゆる「五穀」のひとつです。
大豆とともに食料の豆として重宝されてきたアズキは、この赤い色がだいじな意味を持っているわけで、呪術的な用いられ方をしたり祭礼などハレのときに使われるようにもなりました。
現代にあってのアズキの消費は、餡や和菓子などの甘くしたものがほとんどのようです。もちろんもち米と炊いて赤飯にしてもいただきます。
そう、あとは、枕にはもう入っていないし……。お手玉には今でもやっぱりアズキでしょうか。お手玉自体もう見かけませんけど。
豆料理好きの私にとって、アズキといえば小豆粥です。寒い季節の朝食には小豆粥の出番が多くなります。小豆粥も赤飯同様ハレの日に食べられる食べ物です。特に小正月(陰暦一月十五日)には魔除けや疫病を払うのに小豆粥を食べる習わしがあります。
小正月には興味深いさまざまな風習があります。
陰暦一月十五日はその年初めての十五夜、望(もち/満月の意)の日になります。今日の「成人の日」の元となった「元服の儀」もこの小正月に行われました。その年の初めての満月の日に小豆粥を食べ、新たな年に生きることを祝い、その粥や小豆を使ってこの年の作物の出来を占い豊作を祈願する。また人にあっては、大人となった成長を祝い、そして子孫繁栄を願う。
小正月に行われる風習のひとつで、果樹の多いここ山形のある地域には「成木責め(なりきぜめ)」というものが残っています。
おじさんが実の成る木(果樹)の幹の二股にわかれたあたりを「成るか成らねが、成らねど、この木ぶった斬るぞ」と脅しながら、ナタで木に傷をつけるまねをします。すると、子どもたちが木になり代わって「成り申す、成り申す」と答え、ナタの傷のところに粥の汁をかけるというもの。(かけるのは粥ではなく小正月の団子を煮た汁というのもあるようです)
これは農民の行事ですが、平安時代の貴族はこんなことをしていました。清少納言の『枕草子』には次のように書いてあります。
十五日は もちかゆの節供(せく)まゐる かゆの木ひき隱して 家の御たち 女房などのうかがふを うたれじと用意して 常に後を心づかひしたる景色もをかしきに いかにしてげるにかあらん 打ちあてたるは いみじう興ありとうち笑ひたるも いと榮々(はえばえ)し <枕草子 二段>
十五日には望粥(小豆粥のこと)を用意して、女房たちはその粥をかき廻す棒を密かに隠し持ち、互いにその粥の木で尻を打たれまいと、いつもうしろを気にしているのがおもしろい、と。うまく打たれてしまうとみんなで大笑いするというのだ。この日はこんな遊びをしていたということです。
粥をかきまわす棒は「粥杖(かゆづえ)」といって、農作物の出来を占ったり、嫁の尻を叩いて早く子どもができるようにとのおまじないにしたようです。
小正月にはこういったセクシャルなメタファーが多く、新しい年の生命力のますますの活気を願います。
ということで、「小豆粥」を作ります。小正月に関係なく、小豆粥はじつにおいしい朝ごはんです。
アズキと米を炊くだけですからどのようにしたって小豆粥は出来上がりますが、紹介するのはウチでいつもしている作り方で、あまり一般的な作り方ではないと思います。朝、なるべく短い時間でおいしい小豆粥を作りたいという思いから出来上がってきたものです。
ただこの方法では、だいじなアドバイスがあります。油断するとガステーブル一帯が粥にまみれ、食べるどころか掃除をして朝が過ぎてしまうことになります。これだけは注意して作ってみてください。
《小豆粥》
2人分(2人で椀に2杯ずつ食べられます)
米 : 2/3合
アズキ: 40g
水 : 1.3ℓ
◯およそ米の10倍強の水で炊きます。
使う鍋はある程度大きなものを使ってください。少々吹いても、鍋からこぼれないよう十分な余裕が必要です。
前の晩に米を洗い、米を入れたザルごとボウルの水に浸しておきます。アズキも軽く洗い、そのままボウルの水に浸しておきます。
朝。
まずアズキをボウルの水ごと鍋に入れ、火にかけます。
煮立ったら5分程度沸騰させ、ザルに上げ、一度アク抜きをします。
鍋にアズキを戻して分量の水を入れ、火を点けます。強火でかまいません。
アズキの入った鍋のお湯が完全に沸騰したら、そこへ水を切った米を入れます。
火加減は強めのまま、米がくっつかいないように鍋底をヘラで軽く動かします。その後はなるべくかき混ぜないようにします。
米とアズキがグルングルン踊っています。
火は中火にします。踊る程度になっていればもう少し火加減を弱めてもかまいません。
一応、10分でタイマーをセットしておきます。タイマーをセットしても慣れるまでは鍋から目を離さないようにしましょう。
あ、そうそう。鍋のフタは使いません。決してフタをしてはいけません。
さて、10分から15分たつと、鍋の様子が変わってきます。細かな泡が覆いはじめ、その泡が少しずつ上へ上へと膨らんできます。10分のタイマーはここを油断しないようにするためなのです。これ以降は鍋から目を離さないでください。ここで目を離してしまうと、朝ごはんではなく掃除をすることになります。
泡立ってきたら、吹きこぼれないように火加減を調整します。かと言って泡立ちもなくコトコトいっているだけの弱い火では、糊のようなおいしくない粥になってしまいますから適度の火加減です。
20分ほどでアズキも割れたのが見え始め、粥の色もいい具合に染まってきます。古いアズキはやわらかくなるのに少し時間がかかりますが、新しい豆ならもうこのあたりで食べられます。
さらにもう少し炊き続けます。米が「花が咲いたように」と形容される、ふわっとしたレースのような半透明の粒になります。最初いかにも多く感じられた湯の量もだいぶ減ってきます。
最後にひとつまみの塩を入れてできあがりです。塩が入ったほうがアズキの甘みもよく感じられる気がします。
ここまでで25分から30分ほどです。
この方法は一般的な日本の粥の炊き方と違い、中華粥の炊き方を参考したものです。本格的な中華粥は4時間も炊くそうです。
ふつうのプレーンな白い粥も、水に30分以上は浸した米を沸騰した熱湯に入れ、米が踊る強めの火加減で米が「花が咲いたように」なるまで炊き上げます。 ほうじ茶で炊いた茶粥もまたおいしいですよ。
─── 3年がたった。まだ、3年です。
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