秋の味覚、キノコのひとつマイタケです。漢字では舞茸。中国語では灰樹花、舞菇と記すようです。
食材としてのマイタケは、天然ものではなく栽培が一般化し、店頭でも食卓でも馴染みの深いものとなりました。ここの画像も、もちろん栽培されたマイタケです。
1970年代半ばに、原木栽培が可能になり、90年代にはおがくずなどによる菌床栽培が普及します。
人工栽培が容易でなかったマイタケは、栽培成功以前、関東以南ではほとんど食べられることもなかったといいます。ここ山形で生まれ、十代まで暮らしたわたしでも、そうたびたび口にすることはありませんでした。ときにキノコ採りの名人とおぼしき知り合い(採れる場所は一切公言せず、密かにひとり採りに行く)がマイタケを持ってくると、何かウチの中が特別な空気感に変わるような気がしたものです。松茸は子どものわたしでも採れましたから、マイタケはそれだけ貴重で「幻のキノコ」だったのでしょう。
<まいたけご飯>
まいたけご飯が大好きなので、たびたび作ります。簡単な調理でおいしくできますから、あまり作らない人もぜひやってみてください。

米2合の場合。
- ⚫︎米2合に合わせた水加減の水。酒を加える場合はその分の水を差し引く。
- ⚫︎塩を小さじ1と1/3を入れ溶く。しょうゆを少し加える場合は、塩を少し減らす。
- ⚫︎ご飯を炊く釜に米、塩味の水、その上にまいたけを好きなだけ食べやすい大きさに割いて載せる。
- ⚫︎ご飯を炊く。
これだけです。
今回は、冷凍保存していたブナカノカが少し残っていたので、加えました。キノコご飯はいろんな種類のキノコが入ると、一段と味わいが増すので、ほかのキノコも加えてみてください。
秋なら栗を剥いて少し加えたり、油揚げを加えたり、もち米を少し入れたり、水加減を減らして焦がし気味にしたり、簡単にさまざま楽しめます。もちろん、天然のマイタケの味とはくらべものになりませんが。
ここからは天然のマイタケについての話です。
マイタケはブナ科の大木、おもにミズナラの根株に寄生し生えてきます。
ミズナラは、里山でも一般的で炭焼きの材料にも使われてきたコナラの仲間で、ドングリをつける、いわゆるブナ林を形成するブナ科の樹木です。コナラよりも大きく、樹高が30メートルも越え、幹の太さも直径2メートルになるものもある大木です。
そこにつくマイタケの大きさは、3キログラムも普通で、大きなものは10キロ、さらに20キロになるものも見つかるとか。
以前、私どものところで『樻(ぶな)の森「内川」きのこ日月抄』(原 敬一 著)という本の出版をお手伝いしました。そこに書かれている内容を少し紹介させてもらいます。
山形県白鷹町(しらたかまち)から片道3時間を歩いてたどり着く、朝日町の国有林、葉山のブナの森における1946年(昭17)から1996年(平9)までの50年間の、著者の祖父と父が残したキノコ採りの記録を紹介したのが、この本です。タイトルの「内川」の地名は、そのキノコ採りをやっていた場所のことです。なお、「樻」の字をここではぶなと読ませています。
キノコ採りを生業とする人にとって、マイタケは昔からもっとも大事なキノコでした。やはり、「売りが最優先するので、マイタケなどの高級品は、めったに食べられない」との記述があります。
これはカノカ(ブナカノカ)についての話ですが、まるで目に見えるようなこんな逸話もありました。
「樹々の間から、三〇メートルほど向こうに真っ白いものが見えるではないか。ヤッター! 一面純白のカノカ、カノカ、カノカ。さあ採るぞ、これほど大量のカノカを未だかつて見たことがない。感動で足元が震えそうだ。目方にして、三〇キロはあるぞ。東京の皆にも宅急便で、食い切れないほど送れるな、葉山の神よありがとう、と心の中で感謝した。ところがである。
愕然とした。キノコの傍らで先行者がユーゼンと一服していた! 樻(ぶな)の番人でもあるかのように。山の掟は、『キノコ採りは早い者勝ち』と厳しい。絶対に守らなければならない鉄則だ。一瞬たりとも後れをとった者は、決して手を出してはいけないのである。今度こそ本当に、膝が震え出した。残念無念。悔しい。けれども、どうにも仕方がないから、泣く泣くUターン。この日の収穫は、殆どゼロ。一週間ほど夢の中に、カノカが出てきた」
では、マイタケの売渡し価格はどうだったのでしょう。
上記の1970年代(昭45〜54)のマイタケ栽培の開始と普及が影響していると想像しますが、記述では昭和46年にキロあたり600円だったものが、昭和49年には4,000円に高騰しています。なんと6倍以上になりました。さらに昭和55年には、8,500円の最高値がつきます。その後はだいたい5,000円の相場で推移します。
ちなみに個人の記録としてですが、昭和57年9月25日にはキロ3,500〜4,000円の相場で、21キログラム、この日だけで72,765円の売り上げが記録されています。
比較として、当時のほかの一日の手間賃が載せてあります。「大工賃9,500円、農家手間4,500円」。
ところで、現在の天然マイタケの相場ですが。こちらは消費者への販売価格で、1キロ8,000円前後か、もう少し高いぐらいでしょうか。
著者はこの本の最後に、この豊かなブナの森を形づくるブナの樹の伐採について書いています。ブナの伐採は明治になってまもない頃からだろうとしています。まずは燃料として。
昭和になってからは、「特に昭和30年代は拡大造林事業によって、ブナ林は皆伐され(ブナ退治といった)、スギ等の針葉樹が植栽された。その後の山林の疲弊、崩壊は無惨である」。
著者である原さんとその仲間は、2005年から2010年までの間、ブナの苗木1,000本を植えた。
「いつの日か、このブナ林できのこが採れる日を夢見る」と結んでいる。
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