カリフラワーとブロッコリー、その色は違っても花の蕾のかたまりを食すキャベツの仲間です。
カリフラワーはわたしの子どものころよく食べましたが、そのころブロッコリーをまだ知りませんでした。その後いつのころからかブロッコリーが食卓に上がるようになり、カリフラワーを口にする機会が徐々に減ってきました。ちかごろでは、輸入物もあってブロッコリーは売り場にいつも積んで置いてある野菜になり、一方のカリフラワーは一つずつラップに包んであってやや高めの値段で、あまり新鮮なものにも出会えない野菜となってしまいました。カリフラワーは日が経っても見かけがあまり変わらないのだそうで、売り場での野菜としては便利だったのでしょう。それだけに新鮮なカリフラワーを食べる機会は少なかったかもしれません。よく食べていた子どものころは、カリフラワーは好きじゃないというのをしばしば耳にした気がします。最近は近くで栽培された収穫したての新鮮なカリフラワーを食べることができるようになって、鮮度の違いでずいぶん味が違うと感じます。
カリフラワーとブロッコリーの逆転現象も、この間(かん)の保存や流通の技術の変化によるものといわれますが、白い野菜より鮮やかな緑の野菜の目に訴える力によるところもまたあるような気がします。
寒くなってきた季節の朝食にオーブンで焼いたカリフラワーがおいしいです。また白い野菜らしい優しい味がおいしいポタージュもよく作ります。
カリフラワーのポタージュといっても、玉ねぎを炒め、あればスープストック(またはお湯にブイヨンでも)に小分けしたカリフラワーを入れ、やわらかくなったらブレンダー(ミキサー)にかけるだけます。あとは牛乳を好みで足し、塩コショウで味を調えてできあがりです。ジャガイモの小さく切ったものをいっしょに煮てボリュームを出したり、気分でハーブやスパイスを加えることもありますが、あまり手を加えるとカリフラワーの風味がそがれるのでシンプルに作るのが好きです。熱くても冷たくしてもおいしいです。
このようなウチで作るスープとはきっと違った味でしょうが、フランス料理のカリフラワーのポタージュを「クレーム・デュ・バリー」と呼びます。レシピはそれぞれですが、ポロネギを使い、ベシャメルソースを使ってこくを出し、最後に白トリュフを削って香り付けします。
《カリフラワーのポタージュ》
さて、この「クレーム・デュ・バリー (La crème du Barry)」という料理の名前についてです。
クレームはクリームです。デュ・バリーは人の名前。正確にはMadame du Barry、デュ・バリー夫人のことです。フランスは18世紀、デュ・バリー夫人はルイ15世の晩年にそばにいた公妾(王の愛人)の女性。王がカリフラワーのポタージュが大好きで、それでスープに愛する女性の名前をつけたともされます。(一説にはデュ・バリー夫人のカツラが白いモコモコでカリフラワーに似ていたからとも)
デュ・バリー夫人が王宮に入ったのは1769年25歳の時、ルイ15世が60歳のころです。同じルイ15世の公妾で有名なポンパドゥール侯爵夫人はその5年前に亡くなっています。政治や文化にもその能力を発揮したポンパドゥール夫人とはまた違って、デュ・バリー夫人は気さくな親しみやすい性格で、王が天然痘で亡くなるまでの5年間をベルサイユ宮殿で過ごしました。
ところで、ポンパドゥール夫人、デュ・バリー夫人という夫人ですから、正式な夫であるそれぞれポンパドゥール侯爵、デュ・バリー伯爵の妻なんですね。フランスの公妾は、宗教上の一夫一婦制に厳格な中での制度です。デュ・バリー夫人こと貧しい家の出でまだ独身だったマリ=ジャンヌ・ベキューは、王に気に入られ、王室に入るためにデュ・バリー伯爵と形式上の結婚をしてデュ・バリー夫人となり公妾として登用されます。公妾は公式なポストとして政治的な力も持ち、地位や財産なども保証されます。しかし、日本などの側室と違って王と公妾の間に子どもができても王位が継がれることはありません。
話を戻すと、年老いたルイ15世の心の拠りどころともいえる若く美しい女性デュ・バリー夫人がベルサイユに入って1年と少し経ったとき、ルイ15世の孫(後のルイ16世)とマリー・アントワネットが結婚します。マリー・アントワネットは、デュ・バリー夫人より12歳ほど年下で、デュ・バリー夫人のことが大嫌いで二人の関係は極めて険悪でした。デュ・バリー夫人は献身的に王の看病をし、王が自らの死を悟ったとき、彼女に王宮を出るように告げたといいます。
1774年ルイ15世が亡くなり、ルイ16世の治世となります。デュ・バリー夫人は王宮から追放され、マリー・アントワネットは王妃となりました。
そして1789年、市民の富裕層に対する反乱でもあるフランス革命が起こります。王ルイ16世と王妃マリー・アントワネットは処刑されました。そしてデュ・バリー夫人もまた、避難先からなぜかパリに戻ったために捕まり、1793年処刑されて50歳で亡くなります。
いまフランスでは「黄色いベスト運動」と呼ばれる政府への大規模な抗議活動が起きています。そのきっかけは燃料費の高騰とマクロン政権の自動車燃料増税に反対する主に地方で生活する人たちが、ドライバーの着ける安全用の黄色い蛍光のベストで抗議行動をはじめたからといいます。その後、庶民の貧困や経済格差に対する反発から事態は拡大し、反政権デモは“反乱”や“経済格差闘争”ともいえる動きを呈しています。
そんなニュースを横目で見ながら、カリフラワーのポタージュを作ってみました。
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