ジャガイモ 〈71号 #11〉

ジャガイモ

 一年中同じような顔でスーパーの野菜売場にあるジャガイモの旬はいつなのだろう?

 もちろん地域によって違いますし、近年、数の増えたその品種によっても違います。5月ごろ、まだそう暑くもない季節の店先に新ジャガとして並びます。わたしなどは毎年「えっ? もうこんなに早く」と思いますが、これは九州産のジャガイモです。
 日本の中心的な産地である北海道のジャガイモは秋が旬になります。今回のフロントイメージに使ったジャガイモは、母の畑でできたものですけれど、ここ山形では8月下旬から9月上旬が収穫期となるでしょう。
 桜前線ならぬジャガイモ前線は、こんなふうにほぼ半年をかけて暖かな土地から寒冷地へ北上していきます。

 寒さにも強く、やせた土地でも十分育ち収穫量も多く、食べれば満腹感も得られる作物ですから、世界中で主食としても、また重要な食料として栽培されてきました。

 しかしこの優秀な作物ジャガイモも、イメージの世界ではやや暗いもになりがちです。
 オランダ生まれの画家ゴッホの《ジャガイモを食べる人々》の絵は、なぜかほとんどの日本の人の頭の中にあることでしょう。
 また英名「ポテト」は、別名「アイリッシュ・ポテト」と名付けられているくらい、アイルランドとジャガイモ栽培は切っても切れない関係にあります。

 南米の作物ジャガイモが、ヨーロッパで本格的に栽培されるようになったのは17世紀のアイルランドだそうです。
 戦乱の絶えないアイルランドの厳しい気候の荒れた土地にジャガイモは植えられました。しかし、そのジャガイモもまた、疫病が原因で1840年代に大飢饉が続き、多くの死者を出した歴史があります。
 江戸時代にオランダ船で入ってきた「ジャガタライモ」は、のちに日本でも「お助けいも」と呼ばれたほど、世界各地で米麦の飢饉の時や戦時下の貧しい人たちの命をつなぐだいじな食料となりました。
 こんなことから貧しい庶民の暗いイメージにつながってしまうようです。

 ジャガイモの収穫の喜びは格別です。ことしのジャガイモはどんなだろうか、期待と不安の土の中から掘り出す。
 掘り出されたジャガイモは、初めて畑の上で太陽の光を受け、付いた土が乾いてゴロゴロと転がっています。


 これほど世界中で日常的に食べられている作物。おいしいジャガイモの料理はさまざまで、数限りなくある。


 今回ここで紹介するジャガイモ料理は、簡単にできる中華料理《酸辣土豆絲 ジャガイモの細切り炒め》です。

 この料理を知る前のジャガイモ料理といえば、シチューや肉じゃが、まるごと茹でてバターで食べるなど、温かいホクホクしたジャガイモの料理が主で、どちらといえば涼しくなってまた寒い季節に食べておいしいものでした。
 しかし《ジャガイモの細切り炒め》は、暑い季節にこそおいしい、新ジャガを食べるにも向いている、ウチの夏の食卓には欠かせない料理になりました。家人によると、とにかくビールによく合うのだそうだ。

 ずいぶん前になりますが、テレビで中国人の料理人が紹介していたのを見て、その調理法に驚き、つくって食べてみたら意外な食感にさらに驚いてしまったのです。
 ホクホクがジャガイモの食感だし、おいしさだと思っていたわたしにとっては、シャキシャキと音さえ出るジャガイモの食感がとても新鮮でした。調べてみると、イタリアでは生で食べるジャガイモのサラダというのもあるそうです。

 さて、つくり方です。

《酸辣土豆絲》もしくは《炒土豆絲(チャオ トゥードゥ スー)》。わかりやすく「絲」としましたが、正確には「丝」という字になります。中国語でジャガイモは「土豆 tǔdòu」といいます。あとはどんな料理か想像できますね。酸っぱくて辛い、糸のように細いジャガイモの料理。


《酸辣土豆絲 ジャガイモの細切り炒め》
酸辣土豆絲 ジャガイモの細切り炒め
【材料】
ジャガイモ 2〜3個
ピーマン 1〜2個
唐辛子

植物油 大さじ1〜2
酢 50mlぐらい
塩・コショウ

ジャガイモの種類はだいたい男爵イモを使っていますが、とくにこだわることはないと思います。


【作り方】
・ジャガイモの皮をむき、細切りにします。
・そのままボールの水にさらし、表面のデンプンを流します。
 スライサーを使って細切りにしてもいいでしょう。プロはマッチ棒ぐらいの細さに切るそうですが、太さはそう気にせずに。

・ジャガイモを水にさらしている間に、ピーマンを細切りにしておきます。
・ジャガイモの細切りをざるに上げ、水を切ります。

・フライパンの油に唐辛子入れ、熱し、ジャガイモに油がまわる程度に軽く炒めます。
・次にやや多いと思えるぐらいの酢を加えます。
 火加減はやや強めの中火。
 火が強すぎたり油の量が多かったりして、酢を入れた時に油がはねないように気をつけてください。

・ジャガイモを箸で動かしながらながら、酢の水分がすっかりなくなるまで火を通します。
 ジャガイモに透明感が出てきます。
 細切りの太さ、この酢の量や火加減で出来上がりの食感にも違いが出てきますので、そこはお気に入りを見つけてください。

・酢の水分がなくなり火を止める直前にピーマンの細切りを加え、次いで塩とコショウをします。


 これで出来上がり。
 とてもシンプルな料理です。

 唐辛子を入れないとぼんやりした味になってしまいますから、忘れずに入れてください。でも辛さは好みですから、大きさや入れておく時間で調節しましょう。

 ウチでは、主にピーマンの盛りの夏の料理ですが、ピーマンの入らないジャガイモだけのレシピもあります。ジャガイモの旬にかかわらず、一年中おいしくいただける料理です。


 堀 哲郎

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