雨の6月。山形では、梅雨と重なるようにサクランボの収穫期がやってきます。
県の内陸、村山地方といわれる地域では、この時期になるとサクランボであふれ返ります。道を車で走れば、その両側に緑濃く葉の繁った中に真っ赤なサクランボがすずなりになっている果樹園が続きます。JAなどの果物の売り場では、地方発送の伝票を書くテーブルのある臨時のテントが用意されます。(商品となったらサクランボだが、栽培する農家も地元の人は
郊外の果樹園の風景、それはみごとだが、ただ残念なのは桜桃の樹の上には何十メートルにもわたって無粋なビニールの屋根がかけてあることです。雨よけテントとも呼ばれるもので、桜桃の実に雨が当たらないようにするためです。赤く色づいてきた実に雨が当たると、簡単に実割れしてしまう。割れると、売り物にならないし、それからカビが出てきたり病気が生じたりします。樹の周りには鳥よけの網も張られ、実を食べに来る鳥と近ごろ急増した一夜で大量の桜桃を盗み出す果樹泥棒の対策もしなければなりません。
私の子どもの頃は果樹泥棒のことも聞きませんでしたし、いまのように雨よけのビニールで覆うようなこともありませんでした。農家の人は梅雨空を見ながら収穫のタイミングに苦心していた記憶があります。雨に当たってしまったらその損失も大きかったでしょう。そして雨のあとは「オート食べてください」と、きれいな桜桃と一緒に、割れたりした「クズのオート」を大量にもらうのです。大喜びでたらふく食べては、食べ過ぎてお腹をこわすのがここらあたりの子どもたちの常。
ビニールの屋根がかけられ、雨による被害が少なくなってきたとはいえ、高級指向に向かう中、実の割れやきれいじゃない「クズ」がやっぱり多いサクランボです。
サクランボ農家である親戚から、その日の出荷のための選別と箱(パック)詰め作業が終わると、大量のクズサクランボをいただきます。クズといっても甘くておいしいのですが、そのまま食べるにはあまりに多すぎる量のため、なんとか保存できるように加工が必要です。
まずはジャム作り。しかしジャムにしても、そう減りません。それでジュースにして冷凍保存することにしました。種を抜いてジューサー(絞るタイプのスロージューサー)にかけます。封のできる袋に入れ冷凍します。皮などの搾りかすも結構出るので、これは砂糖を入れて煮て、甘いペーストにして冷蔵保存、ヨーグルトといっしょに食べます。冷凍にしたジュースはスムージーにしたり、シャーベットを作ったり。
せっかくのおいしいサクランボを無駄にしたくないし、加工するのも厭わないのですが、最初もらった時はこのサクランボの種を取るにはどうしたいいのかと悩みました。きっと種を取る道具があるはずです。調べると、ネットでなかなかいいものを見つけました。すぐ購入。ドイツ製。使ってみたらとてもうまい具合に種がはずせます。これは山形の村山地方のお宅には必需品となるのではないですかねー。
新鮮な果物が豊富にあるときは、簡単なパイに焼いて食べることにしています。市販の冷凍パイ生地の上に種を抜いたサクランボを並べます。上から粉糖をふりかけ、200度のオーブンで15分から20分焼きます。焼きたての熱々の「チェリーパイ」をコーヒーでいただきます。生のサクランボとはまた違った甘酸っぱさの、果物のおいしさが味わえます。
桜桃はデリケートで短期間に収穫する必要があるので、家族や親戚、近所の人や知人にも頼み、総出で収穫出荷作業に追われます。この時期だけは、遠方で暮らす家族も帰ってきて、普段仕事を持っている人も時間を作っては桜桃の手伝いをします。
桜桃に限らず果樹の栽培は、手間のかかる重労働です。それに、何年もかけて収穫できるところまで樹を育て上げ、運良く天候にも恵まれて思い通りに収穫できたとしても、出荷する際の価格はどうなるのか。雨よけのテントなど資材は、農機具は。
桜桃に必要な雨よけテントは、金属のパイプを組んでそこにビニールを張るのですが、高い場所での危険な作業です。作業中に足を踏み外して大けがをしたという話も聞きます。
ある程度収入の望める桜桃農家ですら、後継者不足に悩んでいます。長くやってきた親の代の人たちができなくなり、サラリーマンで生きてきたその息子である私の友人たちは、折角ここまで育ったのをやめるのは忍びないと、慣れない桜桃づくりを始めたり、代わりにやってくれる人を探すことに苦労しているようです。
それでも、やめていく人は多く、いつも葉が繁った桜桃の樹のあるのがあたりまえだった場所をあるとき通ると、無残にも立派な幹が根元から切り倒されているのに出くわす。ああ、ここもかあ。手入れのできなくなった果樹は、そのままにしておくと虫や病気の原因になり他の果樹にも影響が出ることになるので、まだ元気な樹でも切り倒す必要があるのだそうです。
いくら「クズ」のサクランボでも、食べられるものはなんとか食べきってあげたいと思います。自然の力と、おいしいと喜んでもらえるよう努力してきた人たちへの感謝のためにも。
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