カブ<蕪> 〈68号 #08〉
この季節においしいものといえば、カブがあります。食べようも和風はもとより洋風にも、煮ても生でも、漬物はもちろん焼いてもおいしく、どんな食材とあわせても控えめながらしっかりとカブのうまさを味わうことができます。葉もまた捨てるにはもったいない、いい味です。
大好きなカブに思いをめぐらそうと思います。
カブ好きのわたくしには味のみならず、この美しい曲線をもつ白い球形のカブのかたちが気に入りです。
しかし、山形に生活の場を移し、野菜を売る店先で見るカブは、白い色ばかりではなく、赤や紫、紫から白へのぼかしのあるもの、形もダイコンと見まがう円柱形やニンジンのような細長いものまであります。日本各地域で、さまざまな在来種のカブが栽培されているようです。他の野菜と比べてもカブの在来種は多種多様で、主に漬物に使われるカブは古くからその土地土地の暮らしに密着した作物だったのだろうと想像できます。
ダイコンと見間違うカブがある一方で、カブと見間違うダイコンもあります。丸いダイコンもあれば、真っ赤なダイコンだってあります。じつは、カブとダイコンを見分けるのはとても難しいことなのだそうです。
植物の分類でいうと、カブはアブラナ科アブラナ属で、ダイコンはアブラナ科ダイコン属です。同じアブラナ科でも、カブはハクサイ、コマツナ、ノザワナ(山形では同種の漬物用としてのセイサイ<青菜>がある)などと同じアブラナ属の仲間です。
カブとダイコンの花の色は違い、カブは菜の花(アブラナ)のように黄色い花が咲きますが、ダイコンは白い花です。もうひとつ大きな違いは、ダイコンは「根」でカブの丸いところは「茎」なのだそうです。丸いカブの先からひょろりと伸びたひげがカブの根。それで、畑の土の上にすっかりカブが顔を出して育っていても不思議はないわけです。
カブとダイコンの違いを調べていたら、こんなことを知りました。日本では下手な俳優のことを大根役者と言います。フランスでは同じような使い方でカブ<navet ナヴェ>と言うそうです。もっとも、俳優だけでなく下手な歌手や出来の悪い映画によく使われるらしい。なぜカブなのかその理由はよくわかりませんが、なんとなくわかる気もします。
この紫のカブは、山形庄内地方の在来種である「温海カブ」です。(温海:あつみ)
冬になる前に主に甘酢で漬けられ、酢に反応して皮の紫が溶け出し、全体が鮮やかなピンクに染まります。右の皿は温海カブをピクルスにしたものです。
料理にかかりましょう。
カブの料理としては、日本では煮物や漬物が代表的で、海外でも寒い季節の煮込みやスープはどこの国でもあるようです。しかし今回は、カブを使った料理としてはちょっと意外でもありおいしいので、この季節になるとたびたび作るようになった「カブのリゾット」にしたいと思います。
「カブのリゾット」
(2人分)
カブ……………150〜200g
米………………180g(1合)
タマネギ………1/4個
野菜ブイヨンとお湯500mlほど
オリーブ油
白ワイン
パルメジャーノ・レッジャーノ(チーズ)…たっぷりがおいしい
塩、コショウ、バター
カブは7ミリ前後のさいの目に切ります。
最後に加えるカブの茎と葉も細かに切って用意します。
まず、小さめの鍋に野菜ブイヨンを500mlぐらいの熱湯でよく溶かしておきます。
野菜ブイヨンでなくても構いませんし、その量は好みですが、固形スープなら一個の半分ぐらいと少なめにします。主役の材料がカブですからあまり強い味にしないようにします。
フライパンで、多めのオリーブオイルで粗めのみじんに切ったタマネギを炒めます。
仕上がり全体が白いので、このあとも炒めているときは焦げないように気をつけて中火よりやや弱めでゆっくり進めてください。
タマネギが透き通ってきたら、米を入れてさらに炒めます。米は洗わず、そのまま入れてください。
オリーブオイルの量はこの米が無理なく炒められる程度です。30秒から1分弱炒めたら、カブを加え油が回るぐらい軽く炒めます。
白ワインを50mlほど一気に入れます。
つぎに鍋に入った熱いスープを、フライパンの米がかぶるまで入れます。
あとは、米の粘りが出ないようなるべくかき混ぜずに、スープが減ってきたらさらに鍋のスープをお玉などで足しながら10分から12分程度煮ます。
スープは熱いほうがいいので、さめてきたら鍋を火にかけ熱いスープを加えます。途中、用意したスープがなくなってしまったらあとはお湯で構いません。
スープを入れ10分ぐらいたったら米の硬さをみて、スープ(湯)を入れるのをやめ、カブの葉のみじん切りを加えます。
さらに粉にしたパルメジャーノを入れ、静かにかき混ぜます。
塩加減を見て塩を加えます。それにコショウ。
バターは好みで加えてください。
カブのリゾットはやさしい味です。
カブの形はやはり魅力的です。
カブの名称も、いまも関西でそう呼ぶ「カブラ」から「カブ」になりました。「カブラ」は頭のことです。
また、春の七草の中ではカブを「スズナ」といい、まろやかな形を鈴に見立てた、これもまた形から付いた名称です。
カブの品種の名前となればさらにさまざまな名が付いていますが、ここは品種の名前ではなく、ある品種の特性を示す種苗屋さんの表現が気に入ったので紹介します。
『根部は純白で肌のつや良く、やや吸込型となり、球形はどの栽培時期でも腰高で安定しており、尻のまとまり良く、ひげ根の発生少なく揃いは抜群である。』
そうか、カブの形はこのように見るのかと得心して、今回のカブの章を終えたいと思います。
また雪の季節が来る。
堀 哲郎
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