春の野いちめんに黄色い花を咲かす菜の花。どこでも見かけられた菜の花畑は、そう目にすることはなくなりました。なんでも、いまでは観光用や景観づくりに植えられて、人の目を楽しませているそうです。
「菜の花」という植物はありません。昔から歌にもうたわれてきた「菜の花」はアブラナのこと。それも明治以降はセイヨウアブラナが主流になりました。アブラナから菜種油を搾るために栽培してきたものです。江戸時代は、食用油のほかに灯し油として利用されていました。
いまここ山形の野菜売り場には、「菜の花」と並んで、さまざまな種類の黄色い小さい花や蕾をつけた野菜が置かれています。小松菜の薹(とう)、チンゲンサイの薹、五月菜の薹、アスパラ菜、紅苔菜、のらぼう菜、茎立菜、つぼみ菜、などなど。土地で呼び名も違っているでしょう、その土地ならではの品種、またその交配種、とにかくたくさんの種類の野菜があります。
これらは「花菜(かさい)」という言い方もあるようです。茎の上の方を手で折って摘むので「折菜」という言い方もあります。
害虫や病気の少ない冬を越して、春先に食べるものなので、農薬の影響も少ない野菜でもあるようです。
これらはみな「菜の花」のアブラナと同じ仲間、アブラナ科アブラナ属の植物です。キャベツ、ブロッコリー、白菜、蕪、からし菜、みず菜なども同じ仲間です。
今回の画像とそのレシピの「菜の花」は、いわゆるアブラナの花菜です。たぶん。これとて一様ではなく、なかなかその特定は難しい。これは葉がやや短めで、ちりめん葉です。
販売されている品種だけでも、食用のほかに切り花用、観賞用とあって、それも食べられないわけではないのですから。
で、今回の食べ方のほうはいたってシンプルに、おひたし。
この時季の柔らかくておいしい薹の野菜は、新鮮なうちにおひたしにして、それぞれの微妙な味と風味の違いを味わいたいものです。
《菜の花のおひたし》
わたしの家もそうでしたが、一般の家庭ではおひたしは、茹でた野菜に醤油をかけて食べるのが普通かと思います。でも、おひたしは「お浸し」で、醤油を出汁で割ったものに浸して味を含ませるものが本来の形です。
料理を楽しみに作るようになってからは、出汁も使ったおひたしにして、鰹節も本節を削って上にのせ、しばらく食べていました。それはおいしいです。しかし、このごろは醤油だけを水で割ったものに茹でた野菜を浸して、上に削った鰹節になりました。いつも取った出汁を使うのが、手間なこともありますが、かえってその方がおいしいような気がするからです。せっかくの野菜の風味が出汁で削がれているような。
それは、特にこの時季のさまざまな新鮮な薹をおひたしにして食べた時に感じたことです。それぞれの微妙な味の違いの中に、その野菜のうまみを感じることができます。それに、上にのせた削りたての鰹節のおいしさが引き立ちます。
出汁も使ったおひたしは、料理店で出るような小鉢に少量載ったものならば、ちょうどいいのですが、ウチのようにたっぷり食べよう、新鮮なうちに食べ切らなきゃいけないとなると、ちょっとしつこく感じてしまうということもあります。
醤油はできるだけおいしいと思えるものを使ってください。水で割ってもおいしい醤油はおいしいです。それに鰹節はぜひ直前に削った本節を。
「菜の花」は、パスタにしても食べますし、汁物にしてもおいしい、わずかな苦みや辛味もある、毎年楽しみにしている野菜です。
最後に、一面黄色に染まった菜の花畑のもともとの役目、菜種油のことを。
現在、「菜種油」はほとんどがセイヨウアブラナから採取されています。いまでも、少ない量ですが日本国内でも生産されます。しかし、消費量のほとんどは海外で栽培され生産輸入された油です。
「キャノーラ油」と呼ばれる、セイヨウアブラナの改良品種から採られた油もそうです。「キャノーラ(canola)」は、カナダの油という意味を含む名称で、カナダ生まれの油です。日本国内では、「サラダ油」としてほかの油と調合され販売されています。
このキャノーラ油は、飽和脂肪酸が少なく健康に良い油といわれ、多く消費されています。一方で、キャノーラ油は体に毒だ、やめたほうが良いともいわれます。
健康に悪いといわれる理由は、その製法。日本国内の菜種油はしぼり取る伝統的な方法ですが、キャノーラ油は、ノルマルヘキサンという石油系の溶剤を使用して抽出します。
もう一つ、キャノーラ油を採るセイヨウアブラナの大半はGMO作物(遺伝子組み換え作物)だからなんですね。日本国内で消費されるものでも、その表示義務はありません。
菜の花や月は東に日は西に 蕪村
〈今回の料理に使った食材の産地〉 2021 / 3
菜の花:山形市 醤油:山形市 鰹節:鹿児島県枕崎市
フロントイメージ
バックナンバー
- ウド 〈#51 2024年4月〉
- レンコン 〈#50 2024年1月〉
- トウガラシ 〈#49 2023年10月〉
- ニンニク 〈#48 2023年7月〉
- タケノコ 〈#47 2023年4月〉
- 雪菜 〈#46 2023年1月〉
- ダイコン葉 〈#45 2022年10月〉
- ニガウリ 〈#44 2022年7月〉
- コゴミ 〈#43 2022年4月〉
- ソバ 〈#42 2022年1月〉
- サツマイモ (#41 2021年10月)
- キュウリ (#40 2021年7月)
- 菜の花 (#39 2021年4月)
- キクイモ (#38 2020年12月)
- トウモロコシ (#37 2020年9月)
- ズッキーニ (#36 2020年6月)
- そら豆 (#35 2020年3月)
- キクの花/もってのほか (#34 2019年12月)
- シシトウ (#33 2019年9月)
- サクランボ (#32 2019年6月)
- ウルイ (#31 2019年3月)
- カリフラワー (#30 2018年12月)
- オクラ (#29 2018年9月)
- ゴマ (#28 2018年6月)
- 大豆 (#27 2018年3月)
- マルメロ (#26 2017年12月)
- ニンジン (#25 2017年9月)
- アスパラガス (#24 2017年6月)
- ホウレンソウ (#23 2016年12月)
- キャベツ (#22 2016年6月)
- タマネギ (#21 2016年3月)
- カボチャ (#20 2015年12月)
- アケビ (#19 2015年9月)
- アボカド (#18 2015年6月)
- レンズ豆 (#17 2015年3月)
- セリ<芹> (#16 2014年12月)
- ミニトマト (#15 2014年9月)
- オカヒジキ<陸鹿尾菜> (#14 2014年6月)
- アズキ<小豆> (#13 2014年3月)
- ビーツ (#12 2013年12月)
- ジャガイモ (#11 2013年9月)
- サヤエンドウ (#10 2013年6月)
- アサツキ<浅葱> (#09 2013年3月)
- カブ<蕪> (#08 2012年12月)
- 青豆(枝豆) (#07 2012年9月)
- ニンジンの葉 (#06 2012年6月)
- キドニー・ビーンズ (#05 2012年3月)
- 里芋 (#04 2011年12月)
- 畑の雑草 スベリヒユ(#03 2011年9月)
- カヤの実(#02 2011年6月)
- ひよこ豆(#01 2011年3月)