この野菜は雪菜(ゆきな)といいます。ここ地元山形でも手に入りにくい珍しい野菜で、米沢市のある地域でしか生産されていないものです。なんでも、現在つくっているのは8軒ほどの農家だけだとか。出荷されるのは雪のある真冬のみです。それというのも、雪菜と言うように白い野菜ですが、まずは11月、緑の葉で70センチほどに育ったものを収穫します。それを畑の上に立て、わらの束と土で覆い、雪が降り積もるのを待ちます。陽の届かない雪の中では、緑の葉は朽ち、白い芯葉ととう(薹)が育ちます。正月ごろから、それを掘りだし出荷するというわけです。
このまま食べても柔らかで歯ざわりよく、甘みと苦味そしてやや辛味がありチコリのような食感です。
では、これはどういった植物なのかというと。
昭和初期につけられた「雪菜」という名前の以前は「かぶのとう」と呼ばれていたそうで、昔(1600年代)、上杉家が減封され米沢に移った際、越後から持ってきたかぶで米沢の遠山という土地に育った「遠山かぶ」のとうを、言ったもののようです。その後明治になって、これも新潟由来の長岡菜と自然交雑により、現在の米沢雪菜となったということです。長岡菜という野菜も、チンゲン菜、小松菜、野沢菜あたりが自然交雑してできたものされていますが、これら野菜は全てアブラナ科に属する植物で、自然交雑しやすい性質を持っています。
さて、この雪菜をつかった料理ですが、薄めに切って、歯ざわりと風味を残すため熱は加えず、合わせる食材に火を通し調味して、最後に和えるように仕上げると、さまざまに調理ができます。パスタもおいしいです。
しかし、もっとも代表的なものは「雪菜のふすべ漬け」です。
これは、じつに品のいい乙な味のおいしい漬物です。使うのは塩のみで、辛味があって、私は下戸ですが日本酒に合いそうです。この辛味がこの漬物の命でしょう。
ふすべ漬けの漬け方には特徴があって、熱湯にくぐらすことで辛味を引き出します。
今回ここでは、そもそも雪菜を手に入れることが難しいでしょうから、他の野菜で雪菜同様のふすべ漬けの作り方を紹介したいと思います。
いつでも手に入る小松菜を使いましょう。上記のように雪菜もアブラナ科の野菜、その仲間なら辛味が出ますし、そのままでもやや辛味のあるものもありますね。名前からして辛い、カラシ菜というのもあります。これもやはりアブラナ科。これもよく出回っている野菜ですので、これでも漬けてみましょう。(アブラナ科の野菜については、菜の花のページも参照ください)
「雪菜と小松菜とワサビ菜のふすべ漬け3品」
・小松菜を食べやすい大きさ(4センチぐらい)に切り、ざるに入れます。
・上から小松菜に熱湯をかけます。菜箸で上下を返しながら、均等になるように。ざるに蓋をして0〜1分蒸らす。葉・茎の量、硬さの具合によってお湯の量や時間は調整してください。雪菜の場合は、熱湯の鍋にざるごと数秒浸す方法をとります。以下の工程は手早くやりましょう。
・冷水にとり、しっかり冷やし、水を切ります。
・ビニール袋に入れます。(チャック付きなどの厚めの袋)
・重さを計り、その2%の塩を入れ、袋を振りなじませます。
・中の空気を追い出すようにして、袋の口を閉じます。しばらくの間は野菜から出た空気がたまってくるので、それもしっかり追い出して冷蔵庫へ。
・2、3日経ったら出来上がりです。食べる分を取り出したあとも、袋の空気はしっかり抜いて冷蔵庫へ戻します。
手順は簡単なのでやってみてください。でも、うまく辛味が出せるかどうかは、やってみてのお楽しみ。うまくいく時いかない時があります。
塩だけのやり方ですが、塩麹などをつかってもできます。画像の小松菜は山形の塩麹に似た三五八漬けの素をつかいました。
辛味の食材といえば、トウガラシ、コショウ、ショウガ、そしてカラシと、辛味成分で大きく4種類に分けられます。ワサビはカラシの仲間に入ります。ワサビやカラシも、今回の雪菜や小松菜などと同じアブラナ科に属し、その辛味は「アリルイソチオシアネート」という成分によるもので、あのツーンと鼻にくる揮発性の辛さです。
ワサビやアブラナ科の野菜をそのまま舐めても辛くはありません。植物内では辛味のない物質(シニグリン)として存在しています。組織が壊されると、細胞内に含まれる酵素がシニグリンと反応して、揮発性の辛味成分アリルイソチオシアネートが生成されます。
アリルイソチオシアネートは、虫に食べられたり植物の病気から身を守る、毒であり薬なんですね。ワサビには殺菌作用があるとよく言われます。また、人に安全な殺虫剤としての研究もされていますし、人間の薬としての効果も期待されています。ちなみに、モンシロチョウの幼虫はアブラナ科の植物を食べてもへっちゃらです。キャベツもアブラナ科の植物です。
この物質は植物自身にとっても毒であり、組織が壊れてはじめて辛味のあるこの成分ができる仕組みなので、ワサビをすりおろすことで辛味が出ることになります。ダイコンおろしもそうですね。ほかのアブラナ科の野菜類も、生のまま噛み砕くと辛味を感じます。
雪菜に話を戻します。このふすべ漬けというのは、熱湯をかけてその組織を壊し辛味を生じさせ、その辛味を閉じ込め揮発させてしまわないようにした漬物ということになります。
雪菜や小松菜やワサビ菜以外にもアブラナ科の野菜はたくさんありますから、あれこれふすべ漬けにしてみてはいかがでしょう。先だっては、生のザーサイを見つけたので、ザーサイの葉をつかったふすべ漬けを作ってみました。なかなかおいしくできました。
ところで、ふすべ漬けの「ふすべ」っていう言葉を聞いたことがありましたか。ふすべ漬けの場合の「ふすべる」は、たぶん熱湯をかける工程を指しています。
辞書で引くと「ふすべる」は、漢字で「燻べる」とも書いて、古くからある言葉です。皮をむいた渋柿をいろりの上に下げ、いぶして渋を抜いた「ふすべ柿」などというものもあったようです。
主要な意味として、煙でいぶすこと(源氏物語などにも)。相手に煙たい思いをさせることから、責めたてること。嫉妬する・やきもちを焼く(枕草子)。すねる(蜻蛉日記)。
‥‥そうかあ、なんか「ふすべ漬け」の意味も分かった気になりました。そりゃ、雪菜だって辛くもなるわね。
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