トウガラシ 〈111号 #49〉

トウガラシ

 辛い食べ物の代表、トウガラシです。原産地はいまの南米ボリビアあたりだそうで、紀元前7,500年ごろから人類は食に利用してきたとなっています。
 いまでは世界中の人たちが、さまざまな形でトウガラシを口にするようになりましたが、世界に広がったのは15世紀末コロンブスが持ち帰った時からのこと。アジア、そして日本には、16世紀ポルトガル人によってもたらされました。
 伝統的な日本料理ではトウガラシの効いたあまり辛いものはないものの、普段口にするようになった、カレー、麻婆豆腐、キムチ、数え上げたらきりがないほど、現代の食卓にはトウガラシを使った辛い料理が出てきます。

 わたしの場合は、体質もあるし、うちの家庭が辛いものをそう食べなかったせいもあり、トウガラシの辛さには弱くて、いつも辛すぎないように気を使って料理をするようになっています。
 トウガラシを多用する地域でも、生まれながら辛さに強いわけではなく、小さな子どものころから少しずつ辛さに慣らして強くなっていくのだとか。なぜそこまでして刺激的な辛さのものを食べるのでしょうね。それは気候的な要因だけではなく文化的な要因によるものが強いといいます。薬効や精神性のようなものも関係しているのでしょう。食文化というのは不思議なことが多々あるものです。

 この辛さを手に入れたトウガラシですが、なぜ辛くしたのかといえば、わが身を他の生き物に食べられなくなるようにしたのです。普通は、甘くして食べてもらえるようにする植物が多いものですが、哺乳類(人間以外の)は当然嫌がりますし、虫たちそして細菌にすら嫌われるトウガラシです。ところが、鳥類はこの辛さを感じないのだとか。トウガラシの魂胆はそこにあるわけで、おかげで鳥に種子を離れた場所まで運んでもらえます。この実が熟したら眩しいほどに真っ赤になるのだって、空を舞う鳥の目に止まるようにとの目的もあるはずです。なんとも南アメリカ大陸らしい物語を感じます。
 自然の仕組みにはいつも関心させられますが、場所柄もっとおいしいものが他にあるからか、時代の変化なのか、近くにいる日本のカラスがトウガラシを突いているのを見たことがありません。どうなんでしょう。この辛さが人間目当ての作戦だったとしたら大成功です。


 さて、トウガラシを使ったレシピといっても、自分では香辛料の一つとしてあれこれに少しずつ利用するだけで、ことさら紹介するものはありませんが、今回は初めて作った料理を取り上げよう思います。

 現在、中東では大規模な軍事衝突が起きています。以前この「フロントページ #28」のゴマのページで、「フムス」という料理を紹介しながらパレスチナとイスラエルのことを書きました。
 今回も、あまり馴染みのない食文化の地域でもあるパレスチナでは、このトウガラシはどんなふうに調理され食べられているのだろうと、調べてみました。

 パレスチナだけではなくアラブ料理一般にいえるのは、あまり辛い料理はないようです。日本の昔からの料理同様ですね。料理によって少し使ったりする程度と感じます。アラブにあまり辛い料理はないというのも興味深い発見なので、そんな中でのパレスチナの料理を作ってみたいと思います。
 ちなみに、トウガラシとトマトのソースを合わせたイタリアの辛いパスタ料理アラビアータ ”all'arrabiata”の名は、イタリア語でいうところの「激怒風」パスタの意で、地名のアラビアとは無関係だそうです。

 簡単にできておいしそうな料理を一つ選びました。
 北アフリカから中東地域一帯、トルコなども昔から食べられてきたもののようです。地域によって名前も、料理として入れる材料もそれぞれ少しずつ異なりますが、トマトと卵のスクランブルエッグというようなものでしょうか。トウガラシは入るものも入らないものもあるようです。

「トマトのスクランブルエッグ」

「トマトのスクランブルエッグ」

・トマトまたはトマト水煮缶
・卵
・玉ねぎ
・ニンニク
・オリーブオイル
・塩、胡椒
・トウガラシ(なくてもよい)

・皮をむいたトマトをすりおろすか、クッキング・カッターにかけピューレにします。すべて均一でなく刻んだトマトの食感が残ったものがあってもよい。
・スキレット(小さなフライパン)で、玉ねぎの粗みじんとニンニクを多めのオリーブオイルで炒め、上記のトマトとトウガラシ加え、フタをして弱火で煮ます。
・10分ほどたったら火を強めにして、卵を割り入れ、卵を崩すようにかき混ぜ、塩コショウをして出来上がりです。最後にオリーブオイルを回し入れました。
 スキレットごとテーブルに出して、パンなどと一緒にいただきます。

 トウガラシは小さいものを1本そのまま入れてみました。適度の辛さになりました。卵は、スクランブルにしないで形を残したままであったり、崩し方もいろいろでいいでしょうね。
 使うトマトによっても味わいが違うでしょうし、ハーブやスパイスも使って、工夫もいろいろできそうです。簡単なランチにいいですね。シンプルですが想像以上においしかったです。

 2023.10  堀 哲郎


 いま世界は、あらゆるところで目を覆うばかりの惨劇が起こり続けています。
 10月7日には中東、イスラエルにハマスが攻撃、それをきっかけにイスラエルがガザに対し大規模なミサイル攻撃、空爆を開始。世界中でこれは虐殺だ、戦争犯罪だとの声と抗議行動の行われている中でも、イスラエルはガザのすべてのインフラ、インターネットを封鎖し、ガザの街はもちろん、病院も学校もモスクも子どももジャーナリストも標的として攻撃しています。大人たちの犠牲になる子どもたちの姿が痛ましい。

 ”正統なユダヤ人”までがイスラエルを批判していますが、この事態はイスラエルのいわゆるシオニストたちや、その後ろ盾であるアメリカの画策なのでしょうか。これは”真珠湾攻撃”か? とも言われます。このままでは大戦にまで発展しかねない状況です。ここではこれ以上書きませんが、ともかくも、この世界を大きく無茶なほどに変えてしまおうとする奴らがいることは確かなようです。

フロントイメージ
バックナンバー

▲ページのトップへ