漢字では蕗の薹。野原に早春一番で顔を出す山菜の一つだが、さすがにこの「展景」の発行時の現在では、大きく育ったフキの姿になっている。
フキノトウはフキの若い花芽。フキは日本原産、キク科の多年草で雌雄異株。フキノトウは株が異なる雌雄異花で、背が高くなるのは雌花。フキノトウもそのつもりで見ると、堂々とした花っぽいフキノトウとちょっと貧弱な雄のフキノトウがあることがわかる。中性花もある。
フキノトウもフキも、アクが強くアク抜きをせずに食べてはいけない。家畜類もフキは食べない。食材としてのフキノトウは、花の咲いていない蕾の方がよいとされるが、大きく開いても硬くなかったら平気です。調理によって使い分けてはどうでしょう。でも、地下茎だけは有毒なので間違っても食べてはいけません。これは生薬として使われます。
栄養素では、フキの方はほとんどありませんが、フキノトウはこれからの成長に必要なカロリーやビタミン、ミネラル類も多いそうです。
画像のフキノトウは、しばらく空けていた家に昨秋戻って住むようになった庭から採ったものです。去年まではよいフキノトウがたくさん出て、近くの知人友人も楽しみにしていたのですが、今年は大きさも数も減ってしまいました。いまはもうフキの時期ですが、それも細くなってしまって。たぶん、去年から草はらだった場所を畑にしたり、庭の木の枝葉を大幅に切って、光や風通しを改善したのでそのせいかと思います。
去年から再開した畑に出てくる草も、去年と今春の草による景色がまた違っています。土の中にはさまざまな種類の植物の大量の根が生きており、何年も前からの無数の発芽していない種が息づいています。数多くの植物の種類の中で自分たちに合った環境になった途端に、芽吹き生育を開始します。それは見えない地中世界のドラマではありますが、生物のダイナミズムというものを感じさせてくれます。
ちなみに、私のところの畑は従来のように土を耕したり、草を根絶やしにしたりしないので、多くのミミズや虫たち、それを狙うカエルや鳥とともに、草たちも元気いっぱいです。
閑話休題。フキの薬効としては、せきやたん、のどの炎症を抑えたり健胃効果があるとされています。冬眠から目覚めたクマが初めに食べるものがフキだそうです。ホントかなあ。「フキが体に溜まった脂肪を流し、味覚を刺激して活動が始まるのだそうですが、フキには体の調整や活動のスイッチを入れる働きがあるのかもしれません」(「現代農業」WEB)。真意のほどはわかりませんが、寝ぼけグマにはぜひ食べてほしいと思いますし、人間もフキノトウの天ぷらか何かをもって、春先の活動のきっかけとしたいものです。
さて、フキノトウを使ったレシピです。フキノトウの天ぷら。フキノトウ味噌は定番でしょうか。温かいご飯に載せて、出掛けるときの弁当のおにぎりの中に。おいしいですね。味噌ではなく醤油にみりんなどで煮詰めたフキノトウの佃煮。佃煮は、ことし育ったフキが細かったので、敢えて細いフキを摘んできゃらぶきにしました。歯ごたえもあるきゃらぶきは大好きで、もう少し経ったら本来の山蕗を使ったきゃらぶきを作ってみよう。
今回はこれまでやってみなかったフキノトウ料理にしたいと思います。
「フキノトウの炊き込みご飯」。「フキご飯」はおいしく、これまでも毎年のように食べてきましたが、フキノトウを使ったご飯は初めてです。

・フキノトウはあまり開いていないものを小さめに刻んで水にさらし、水を換えるだけでアク抜きを終えました。
・しっかり水を切ったフキノトウを油で炒めます。調味料の醤油にみりん、酒を加え軽く煮ます。大さじなどで使った量を忘れずに把握しておきます。
・研いだ米にだし汁を入れますが、通常の水加減の量から、調味に使った醤油、みりん、酒の量を減らしただし汁の量となります。
・細切りにしたニンジンと油揚げ、さらに炒めて調味したフキノトウも加え、軽く全体を混ぜ炊き上げます。
フキの葉っぱは丸く大きくよく目立ち、いまは絵本やアニメで見るだけかもしれませんが、大きな葉は雨の傘がわりに差してみたり頭に被ったりと、特に子どもたちの遊びにはなにかと使われてきました。皿の代わりに食べ物を載せたり。
そんなフキのイメージは、アイヌ人の伝承にある「コロポックル」との関連もあるかもしれません。コロポックルとはアイヌ語で「蕗の下の人」という意味だそうです。現代のわれわれにとっては、森の中のフキの下に住む妖精のような存在として受けとっているでしょう。
北海道には2メートルを超える大きなフキもあるそうですから、ことさら小さな人たちと限らないかもしれません。「コロポックル」は、その正体や、アイヌ民族と和人の歴史とも無関係ではなく、過去にも論争がなされたほどのなかなか難しい問題でもあるようです。
いまのシベリアから北海道にかけての地域に暮らしていた少数民族が、数多く存在していました。いわゆる北方民族と称される人たちです。しばらく前になりますが、そのような人たちの存在を知りとても興味深く、函館にある北方民族資料館に行ったこともありました。
アイヌ民族の資料が中心ですが、さらに広い地域に渡り住み暮らす少数民族の資料も見ることができる、期待以上に面白い施設でした。
アイヌの人たちは「交易の民」とも呼ばれており、現在の東北地方から樺太、千島、さらにもっと北にまで活動の範囲があったと言われます。「北のクロスロード」が存在し、アイヌ文化とはまた異なる「オホーツク文化」といわれる海洋漁猟を中心とする独自の文化もありました。
持ち帰った資料館のパンフレットに、北方民族の地図上の分布図が載っています。そこに記されてある民族の名称だけでも上げてみます。
北から、カナダ北部のイヌイト、アリューシャンのアリュート、シベリアのチュクチ、コリヤーク、ヤクート、エベンキ、オホーツク海周辺のエベン、イテリメン、ニブフ、ネギダール、ウリチ、オロチ、アムール川(黒竜江)流域のナーナイ、ウデヘ、樺太のウイルタ、樺太アイヌ、千島アイヌ、そして北海道アイヌ。
現在どのような状況なのかは推して知るべし。歴史的には、われわれだって、特に寒さ厳しい東北地方に住まう者たちには、これらの民族ともまるで無関係とは言えないでしょう。顔つきも似てますしね。
彼ら北方の人々にとっては、わたしたちを取り巻く自然に存在する万物が神であり、精霊が宿っていると考えます。神々は動物や植物やあらゆるものの化身であり、人々とともに存在していると。
ヤハウェやキリストやアッラーやアマテラスオオミカミやシャカより、動物や植物の方がわたしはずっと好きです。
なぜこのような北方民族に興味を持つに至ったかという理由です。
ギリヤーク尼ヶ崎という舞踏家の大道芸人の名をご存知でしょうか。わたしが高校卒業後、美術をこころざし東京で暮らし始めたころのこと。ギリヤーク尼ヶ崎は、日本中どころか海外にも出かけて路上や公園で、音楽にあわせ独特の舞踏を披露し投げ銭を頼りに活動する大道芸人としてその名もよく知られていました。とても面白かった。
その名前の「ギリヤーク」ってなに? それは、上記の北方民族のひとつであるニヴフの古い呼称のことで、函館生まれの彼が、風貌がギリヤーク人に似ているので芸名にしたといいます。そのころから、日本にも北の方にはかつて多くの民族がおり、独自の文化圏があったのだいうことに気づかされ、さまざまな意味で新鮮な驚きと、不明確なもしくは国境のない世界では、それも当然のことだろうという思いを持ったのでした。
ちなみに、ギリヤーク尼ヶ崎はいまだ健在で、阪神大震災から30年の今年1月、神戸にある公園で舞を披露したという。94歳。
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