タマネギ<玉葱> 〈81号 #21〉

カボチャ

 タマネギは日本や中国など東アジアでは、野菜の食材としての扱いが普通ですが、西洋やインド、多くの国々では、料理の「だし」としての役割で使われます。日本料理での昆布と同様のだし成分(グルタミン酸)をタマネギは持っているからです。
 西洋では、保存のきくことや多様な薬効、悪霊撃退効果まであり、古代から欠かせない野菜として栽培されてきました。原産は中央アジアとされますが、古代ローマ帝国の拡大とともにタマネギの栽培地が広がっていったということです。


 このタマネギについての話で、以前から気になっていたことがあります。タマネギはタコを柔らかくする、というのです。蛸です。もともと西洋ではタコを食べる地域はそう多いわけではないのですが、タコをよく食べる南欧ではタマネギと一緒に煮ることで柔らかくなるとしています。
 一方日本では、タコを柔らかくするのには大根で叩くとよいといわれます。なにも大根でなくても棒でいいと思いますが、よく叩いて、大根といっしょに煮ることで柔らかくするというのが日本料理の場合です。

 話はそれますが、大根とタコの話。
 なんの本だったか、むかし読んだものの中に、タコが畑の大根を抜いて食べるというくだりがありました。これがすっかり気に入ってしまって、それからというもの、畑で大根を抜いたり料理のタコと大根のことが出るたびに、このタコのイメージが頭に浮かんでしまうのです。六本の足で踏ん張って、残りの二本の足で大根を抜くのだろうか。それとも、案外五、三でかも。

 日本には古くから、月夜にタコが海から陸に上がってきて、畑の芋や大根を盗って食うという俗説があります。
 元禄期の本草書『本朝食鑑』という書物の「蛸魚」の項目には、飛ぶような素早さで走り、畑の芋を掘って食ったのを、農夫が目撃してびっくりした、という話が載っています。
 また、江戸の俳諧師炭大祇(たんたいぎ)は次のような句を作っています。

  蛸追へば蟹もはしるや芋畑

 この手の話は、江戸期の人たちにはお気に入りの出し物です。しかし、物の本によれば、近年まで畑でタコを目撃したという逸話が日本各地にあり、江戸の洒落が生んだ話とまでは言い切れないようです。


 閑話休題。では、タマネギは本当にタコを柔らかくするか。やってみようと、タコ料理レシピを探して作ってみたら、これが本当に柔らかくてとてもおいしい。以来、ウチのお気に入りタコ料理といえばこれとなりました。
 今回のレシピは、タマネギとタコとジャガイモを使った、いってみればスペイン流芋タコ、「タコとジャガイモのパプリカ煮」です。
 もちろん、タコは茹でたタコを使います。また、タコの量が少なくても、タコの味が全体に回りますから全然平気です。安いタコの頭でも大丈夫。


《タコとジャガイモのパプリカ煮》

タコとジャガイモのパプリカ煮

 この料理に限らず、タコ料理はまずたっぷりのタマネギとじっくり煮込んで柔らかくします。手順はいろいろありますが、今回はできるだけ簡単に。

・茹でダコは一口大に切ります。タマネギは1〜2センチ角、たっぷり使ってください。パプリカはそれよりやや大きめに乱切りにして用意します。

・厚手の鍋に、オリーブオイルでにんにくのみじん切りとタマネギをさっと炒めたら、パプリカ、タコを入れ、油がなじんだら白ワインと水を加えます。ヒタヒタより多めの水。

・鍋に蓋をして、弱火で30分ぐらい煮ます。ローリエ、少なめに塩、コショウもここで入れてしまいます。
ジャガイモを用意します。肉じゃがのような感じで切ってください。面取りなどしないほうがいいです。仕上がりは少しくずれ気味のほうがおいしい。

・鍋のタコが柔らかくなってきたら、ジャガイモを入れます。汁の量も少なくなっているでしょうから、水を足してください。パプリカパウダーをたっぷりと加えます。少し辛味があってもよければ、チリパウダーをお好みで加えます。チリパウダーの代わりに唐辛子をほんのちょっと入れても。

・ジャガイモに十分火が通って、汁気も少なくなるまで煮込みます。途中、塩加減もみてください。

全体では、ある程度調理時間がかかります。ジャガイモを入れるタイミングを早めにすればもっと時間は節約できますが、タコの柔らかさの加減次第ということでしょうか。それと、パプリカは入らなくても、パプリカパウダーがあれば味としては十分です。


 やっぱりタマネギの効果なのか、タコは実に柔らかくなります。タコの歯ごたえも入れてのタコ好きの人にはどうかと思いますが、タコの味が好きな人には、ぜひ味わってほしい料理です。タコの味と一体化したジャガイモがとてもおいしいですよ。

〈今回の料理に使った食材の産地〉 2016 / 3
タコ:モーリタニア、タマネギ:北海道、ジャガイモ:北海道、パプリカ:韓国、にんにく:山形、パプリカパウダー:スペイン、チリパウダー:インド、ローリエ:トルコ、白ワイン:チリ、オリーブオイル:スペイン、:オーストラリア、黒コショウ:ベトナム




──── ネット上で季刊「展景」の公開を開始したのは、震災そして原発事故の直前、2011年3月1日のことだった。それから5年が経っている。

 堀 哲郎

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