ビーツ(テーブルビート) 〈72号 #12〉

ビーツ

 あまり馴染みのない野菜かと思いますが、ロシア料理(正確にはウクライナの伝統料理)のボルシチの材料、ビーツです。
 晩秋の店先にわりあい地味に置かれています。
 以前も年に一回ぐらいはボルシチにして食べていましたが、山形に戻り生活するようになって、このビーツが安く豊富に手に入るようになりました。

 11月、12月と、地元で作られたビーツが八百屋や道の駅で売られています。
 こんなところに!と、初め意外な野菜に少し驚きましたが、都会に送り出される新しい作物なのでしょう。では、この地元で売られるビーツはどうやって食べるの? みんなボルシチにして食べているとは思えないし。
 ある店で分かりました。商品の横に、「漬け物の色付けにお使いください」。ああ、なるほど。ダイコンもそれはきれいな色に染まるでしょう。しかし、それではビーツを食べないのがちょっともったいない。

 ところでこのビーツ、一見するとカブの一種かと思いますが、アブラナ科のカブやダイコンの仲間ではありません。分類としてはアカザ科フダンソウ属ビート。フダンソウ(不断草)も近ごろ出まわるようになってきた野菜ですが、アカザ科の野菜といえばホウレンソウがあります。
 また、同じビートと呼ばれる仲間の野菜には、テンサイ(甜菜/別名は砂糖大根)があります。 ビーツの和名はカエンサイ(火焔菜)といい、江戸時代の文献にも紹介されています。

 ビーツを使った今回の料理は、やっぱりボルシチです。ほかにもピクルスにしたり、サラダでも食べられます。
 なんといってもビーツの真っ赤な色は、食べ物としては強烈な印象です。
 元々ビート類は地中海周辺の育ちらしいですが、古代ローマ時代のころから薬用としても使われてきました。発熱や便秘の解消、またロシアでは飲む輸血とまでいわれ、血液や肝臓の改善にも使われてきたそうです。
 ビーツの仲間であるホウレンソウにもどこか似た、口にしたときの土の匂いのような独特の味は、鉄分も多く、土の中から様々な栄養素を取り込んでいるに違いないと思えるものです。


《ボルシチ》

 ビーツはそのままでは固く、ボルシチに使うにはまず下茹でが必要です。切ってしまうとせっかくの色が抜けてしまうので皮付きの丸のまま、水から茹で、沸騰してから30分〜45分ほど茹でます。大きさにもよりますから竹串などで中まである程度柔らかくなったか確かめて、火を止めそのまま冷まします。冷めてきたら皮をむきます。茹でたら指で簡単に皮がむけるようになります。

ボルシチ

 ビーツを切って準備しておきます。切り方は好みでいいと思いますが、ウチでは拍子木切りに近い切り方です。 この辺りの作業でまな板付近は、一体何があったんだというような惨状を呈します。

 肉と野菜類でスープを煮ます。
 その材料は、ビーツを入れる以外は特に決まりもないようです。
 ウチでは牛肉か豚肉のかたまり肉。硬い肉でもしっかり煮込めば柔らかくなります。
 野菜はタマネギ、ニンジン、セロリ、ジャガイモ、キャベツ、トマト。
 ニンニク、ローリエ。最後に添えるサワークリーム。

 手順はシチューなど煮込み料理と同じように進めます。
 鍋に、好みの大きさに切った肉、くし切りのタマネギ、ニンジンとセロリも適当な大きさに切って入れます。ニンニクは刻まずに潰して。
 材料より多めの量の水に、ローリエを入れてアクを取りながら煮ていきます。
 肉はあらかじめまわりを焼き付けておいてもいいですし、肉からのダシで物足らないようならブイヨンを加えてもかまいません。ウチではボルシチにブイヨンもスープストックも入れません。

 20分ほど煮たら、準備したビーツの2/3ぐらいの量を入れます。残りは仕上げ用にとっておきます。それに大きめに切ったジャガイモ、細切りにしたキャベツ、トマト1個はざく切りにして加えます(もしくはトマト缶)。ウチではこのタイミングで少なめに塩を入れます。

 あとはことことと弱火で煮込みます。
 肉がすっかり柔らかくなるぐらいまでになったら、塩コショウで味を調え、仕上げ用のビーツを上に載せ、少し火を通したら止めます。

 器に盛り、サワークリームを添えて出来上がりです。

 トマトの酸味の他にもうちょっと酸味を加えるために、途中ワインビネガーをほんの少し入れたり、サワークリームとヨーグルトを混ぜ合わせたものを添えることもあります。

ボルシチ

 窓の外は、厚い雪に覆われ冷えきったモノクロの世界。
 目の前に出てきただけで体が暖かくなるこの色と、やさしい甘みと大地を感じさせる土臭さのような力のある味は、冬にうれしい料理です。

 堀 哲郎

─── やっと、福島第1原発5、6号機の廃炉を決めた。

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