キドニービーンズ 〈65号 #05〉

キドニービーンズ

 アメリカの西部劇は、映画も子どもの頃のテレビドラマも好きでずいぶんと見ました。マカロニ・ウエスタンだって作られたくらいですから以前は世界中が西部劇に夢中になったのでしょう。あの頃は日活映画のスターだって馬に乗って旅をしていましたから。

 わたしの豆料理好きの原点はこの西部劇にあります。
 西部劇に出てくる料理といえば、ブリキのような金属製の皿にのせた豆料理。コヨーテが哭く焚き火の明かりだけの真っ暗な夜の荒野の中、同じ金属のカップに注いだコーヒーといっしょに、スプーンで皿をカチャカチャ鳴らしながら食べるのです。

 そんなシーンの多くは暗い白黒の画面で、その豆料理らしいものも得体の知れない、決しておいしそうには思えないものでした。とはいっても、あのハードな毎日をあんな食事で済ませられるのですから、きっとポパイのホウレンソウのように栄養豊富で力の出る食べ物なのだろうと想像していました。

 身近では、インゲン豆は甘く煮て食べるものがほとんどですから、時は過ぎて、チリビーンズをトルティーヤで挟んだものを食べたり、缶詰で売られているチリコンカルネを食べてみることになってはじめて、ああこういうものだったのか、豆料理とは実においしいものだと知ったのです。


 というわけで、今回の食材はキドニービーンズ。
 赤いインゲン豆。日本の金時豆と呼ばれているものと近い種類の豆ですが、大きな違いは皮がしっかりしていて煮くずれしないこと。多くの豆は、火加減が強すぎると煮ている時に割れてしまうので注意が必要です。しかし、キドニービーンズはその心配がありません。いくら煮込んでも、また冷凍してから煮返そうが豆のかたちはしっかり残ったままです。味わいも金時豆とはすこし違います。

 キドニー:kidneyは腎臓のこと。そういえば豚の腎臓のことをマメとも呼びますしね、よく形が似ています。中央アメリカが原産です。
 料理に使う場合は、生豆または煮豆の缶詰を輸入食材店で購入します。

 料理はチリコンカルネ(チリコンカン)。メキシコ・アメリカ料理です。おもしろい名前です。スペイン語でChilli con carne。Chilliは唐辛子、con carneは肉の入った、辛い肉煮込みということでしょう。

 さて始めます。
 まずは豆の戻し方です。
 いつもの豆同様に、一晩水に浸し、豆がしっかり膨らむのを待ちます。
 水から火に掛け、一度茹でこぼします。もう一度水から、豆が鍋の中でゆっくり踊るくらいの火で柔らかくなるまでアクを取りながら茹でます。30分以上はかかりますが、浸水や豆の状態で変わりますので適度な柔らかさになったら火を止め、そのままゆで汁の中で冷まします。

 キドニービーンズは皮が破れる心配はありませんので、他のインゲン豆のように気を遣わずともかまいません。
 茹でた豆を一度に使い切らない時は、茹で汁を切って冷凍します。小分けにして袋に入れておけば、解凍してそのままサラダやスープに入れて食べてもおいしい。


チリコンカルネ(チリコンカン)
【材料】
キドニービーンズの煮豆
牛肉(牛挽肉が一般的)
タマネギ
セロリ
ニンニク
トマトの水煮缶
スープ
オリーブオイル、塩、こしょう

チリパウダー(またはカイエンペッパー)
パプリカ
クミン・シード
タイム
オレガノ


 使う牛肉は挽肉が一般的ですが、普通の牛肉を使ったのが好きです。もちろん豚肉でも(この場合はポークビーンズとなるのかな)。豆と同じぐらいの大きさにして使います。タマネギ、セロリも同じぐらいの大きさにしておきます。

 オリーブオイルでニンニク、牛肉を炒め、さらにタマネギ、セロリを炒めます。つぎにトマトの水煮缶を入れ、トマトから出た水分が少なくなるまで炒め、あとは豆を入れ、スープまたは水と固形スープ、塩、こしょうで煮込みます。

 ここに加えるスパイス類として、チリパウダー(量で辛さを調節)、パプリカ、クミン、タイム、オレガノなど。
 チリパウダーのほかに、パプリカ、クミンだけでも入ると、それらしい風味になります。

 ぐつぐつと煮込み、汁の量が減ってきたら塩加減をみてでき上がりです。
 いったん冷めるまで置くと、豆の味と一体になってまろやかでおいしくなります。ご飯といっしょでもいいし、トルティーヤでなくともパンにレタスと挟んでもおいしいです。

チリコンカルネ

 世界中に豆料理はあります。今回の中央アメリカはもとより、南米やもっとも古い歴史があるだろうアフリカにもおいしそうな豆料理がたくさんあります。
 豆の歴史は長く、麦や米を栽培できない土地でも収穫ができて保存にも向く優れた食べ物。何せこの石ころのような状態でまだ生きている植物なのですから。命の生まれる、種ですから。
 自然環境の厳しい土地で暮らす人々も、豆を食べて生きてきました。
 わが家の食料ボックスには何種類かの豆が保存されています。それを見ていると西部開拓時代とまではいかなくても、少々電気が停まったところで食べて生きていける気になってきます。

── あれからもう、あれからまだ、一年。
 堀 哲郎


 次のような画像があったのでリンクを置いておきます。ダッチオーブンで調理しています。

カウボーイの食事の準備。(wikimedia)

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