アボカド 〈78号 #18〉

アボカド

 このページでは、はじめてフルーツをとりあげます。
 アボカド (avocado) 、クスノキ科ワニナシ属。和名では鰐梨といいますが、英名で avocado は別名 alligator pear でワニ梨です。ワニ肌に似たフルーツということです。原産はメキシコ、中央アメリカ。西洋人にとっては、大航海時代の16世紀に、そこに生きる人々の主たる食物ともなっていた植物として知られるようになります。すでにそのころは、南米アルゼンチンでも栽培されていたようです。

 私の子どものころは、その名前すら聞いたことがありませんでしたが、しばらくして「”アボガド”はわさび醤油で食べるとマグロのトロだ」であるとか、アボカドを寿司ネタにしたカルフォルニア・ロールであるとか、フルーツでありながらフルーツ扱いしてもらえない、一見怪しげなフルーツとして、そう積極的には食べずに過ごしてきました。
 しかし、いつしかマーケットでも豊富に並び、ねだんも安くなって、たまには買うようになりました。とはいえ、トロのつもりで食べるのも、海苔で巻くのもあまり嗜好に合わず、なにかおいしい食べ方はないかと探して、いまではウチの定番になった料理が、今回紹介する「アボカドの冷製パスタ」です。

 レシピを紹介する前に、アボカドについてもう少し。
 アボカドの花は5月に咲きます。熱帯植物のイメージに合わない、黄緑色の小さな地味な花です。果実の成熟には10〜15ヵ月を要します。したがって、実がなるのは2年に1回。そのせいなのか、アボカドの栄養価はとても高く、果肉の20%前後が脂肪分で、その多くは悪玉コレステロールの抑制効果があるとされる不飽和脂肪酸。またビタミンE、B群、Kなどが豊富といいます。

 当然その食べようは、世界中でさまざまあります。興味深いのは、大航海時代以降アボカドは世界に広がるわけですが、世界のポルトガル語圏の人たちはアボカドを主にデザートやスナックなど、甘くしてどちらかといえばフルーツらしい食べ方。一方、原産国の一つメキシコもそうですが、スペイン語圏の人たちはアボカドを甘くしては食べない。メキシコの「アボカドのサルサ」などは代表的なものです。双方の違い、必ずしもそうではないと思いますが、ポルトガルとスペインの大航海時代の世界侵略競争が、その後もさまざまな形で残っていて、この違いもどんな経緯でできたものなのかちょっと興味があります。他の食材ではどうなのかも、気にしてみようかなと思います。

では、「アボカドの冷製パスタ」です。

《アボカドの冷製パスタ》

  2人分

アボカドの冷製パスタ

 ふつう冷製パスタは細めのカペッリーニなどを使うことが多いですが、このアボカドの冷製パスタは太めのスパゲッティや平らなフェットチーネなど、ボリュームのあるパスタの方がいいように思います。
 パスタの茹で時間は、冷製パスタの場合、表示されている時間より1分ほど長くし、冷水にとり、冷やします。

 ソースは簡単です。
 アボカドの果肉をボウルに入れ、フォークとヘラなどでつぶしてペーストにします。きれいに潰さず固まりの部分を残してもいいです。途中、おろしたニンニク半かけ分。パルメザンチーズをお好きなだけ。レモンをぎゅっとひと絞り。塩、コショウ。オリーブオイルは少し多めにして、いい具合にパスタに絡むように。
 トマトを湯むきして、できれば種のところは取り、1センチ角ぐらいに刻んだものを加え、全体を混ぜます。
バジルの葉を刻んだものなども、あれば。
 ここに、冷えたパスタを入れて和えれば完成です。
 夏のランチとして、すぐできて、目にも美しい、とてもおいしい一皿になります。

 トマトの湯むきは、湯には入れず、トマトのヘタのところにフォークを突き刺し、フォークを持ってガスの火でトマトを直接炙るのが一番手っ取り早い方法です。
 今回はパルメザンチーズを使いましたが、クリームタイプのチーズにして、アボカドのペーストとよく混ぜ合わせ、ちょっとボリュームのあるソースでもとてもおいしいです。
 さらに豪華にするなら、エビを加えたり、上に生ハムやサーモンをのせます。


 アボカドのことでもう一つ。アボカドを切った時に現れるあの種のことです。黒い姿のアボカドの、みどりの卵型の果肉の真ん中に鎮座する、あの存在感のある茶色の球体。まさしく核、あの造形物はなかなか捨ておけません。
 種ですから、土に植えてみようかと考えたひともいると思います。
 再び大航海時代の記録からですが、アボカドの種から得られる乳白色の液体が、空気にさらされると色が変わり、それがインクとして使用されたと、いうのです。

 それでは、アボカドの種を使って染色ができるではないですか。どうも、アボカドの皮からも色が抽出できるようです。パスタに使ったアボカドの種と皮を1時間ほど煮出して、絹布を浸してみました。
 草木染めではいつものことですが、意外な色に染まりました。
 左は無媒染。右は灰汁で媒染。

アボカド染め

 みどりの美しいアボカドの果肉の中の種の中に、こんな色が潜んでいたとは。アボカドとのつきあいも少し変わってきそうです。

〈今回の料理に使った食材の産地〉 2015 / 6
パスタ:イタリア アボカド:メキシコ トマト:山形県大江町 ニンニク:自家栽培 オリーブオイル:イタリア パルメザンチーズ:イタリア レモン:和歌山県 海塩:メキシコ 黒コショウ:マレーシア バジル:自家栽培


 堀 哲郎

フロントイメージ
バックナンバー

▲ページのトップへ