大豆 〈89号 #27〉

大豆

 ザワークラウトに始まった「発酵」への興味、こんどは納豆を作って食べてみたいと思うようになりました。先ごろ購入した発酵用に温度管理のできる機器を使って、納豆を作るようになりました。もちろん稲わらを使ったものではなく市販の納豆菌を使います(無農薬のわらを入手するのも難しい)。大豆を煮て、納豆菌を種付けし、40〜45℃でまる1日から1日半。
 近在で栽培された大豆を使っているので、市販の納豆用大豆の納豆よりも粒は大きいが豆の香ばしさも感じられてとてもおいしい。粒が大きいゆえに、ご飯にかけず普通のおかずにしてしまうこともあります。

納豆

 中国や日本で「五穀」のひとつに数えられるこの大豆という作物は、東アジアの原産で、20世紀初頭までは他の地域で食べられることがなかったものらしく、その後、アメリカなどで油や飼料として利用するため栽培されるようになりました。
 言うまでもなく、味噌・醤油・豆腐・納豆など、さまざまな食品に加工されて食べられています。いまでは良質で豊富なタンパク質を含む食材として知られるようになったこの大豆が、最近まで東アジア以外にその栽培が広がらなかった理由は何だったのでしょう。

 大豆に限らず、植物の種子である豆には、有害物質が含まれていてそのままでは食べることはできません。加熱することで食べられるようになるのですが、さらに発酵によって有害物質を分解することで、より安全で栄養価の高い食品となります。このことばかりが栽培の広がらなかった理由というわけではないでしょうが、豆腐にしたり発酵させて味噌や醤油や納豆にするという、手間のかかる作物であることも、大豆の栽培に影響していたのだろうと思われます。

 またインドネシアには、この納豆に近い発酵食品で「テンペ」という伝統的な食べ物があります。ハイビスカスやバナナの葉に付いているテンペ菌 (クモノスカビ)によって発酵を促します。本来は、大豆を煮てバナナの葉などで包み自然発酵するのを待つのですが、納豆同様にテンペ菌も市販されていますのでわりあい簡単に作ることができます。
 テンペは、特に欧米のベジタリアンの人気によって、いまではだいぶ一般的になってきました。納豆のような粘りや気になる匂いもありません。白い綿状のカビに覆われて、大豆の粒がブロック状になります。それを板状や四角に切って調理をしますが、そのままでもサラダにしても食べることができます。根菜類とのきんぴらや、ココナッツミルクを使ったカレーに入れたのもおいしかった。大豆に限らず他の豆でもできますし、納豆よりも料理の汎用性に富んでいますから、日本でもより一般的になってくるのではないでしょうか。

テンペ

 さて、このように東アジア、そして日本の食を長きにわたって支えてきた大豆。現在の食品用に消費される日本国産大豆の自給率はどれくらいかというと、6.7% 。あとは輸入に頼っていて、その全輸入量の73%はアメリカからとなっています。

 アメリカで大豆を栽培するようになったのは1920年代、油や飼料用として始まります。そしていまでは、全世界の大豆生産量3.5億トンのうち、1.19億トンがアメリカ。次いでブラジル(1.07億トン)、アルゼンチン(0.57億トン)とつづき、この3つの国で全世界生産量の8割以上を占めています。南米では、食肉生産の増加と相まってその飼料用として、輸出の拡大また大豆油の利用によるバイオ燃料の需要急増などによって、急激に大豆の栽培面積が広がっており、アマゾンやアルゼンチンほか南米諸国の森林消失など地球規模での環境問題もはらんでいます。

 また、そのほとんどの大豆が遺伝子組換え(GM)大豆であることも心配です。
 除草剤をかけても枯れない遺伝子組み換え作物は、モンサント社のラウンドアップなどグリホサート系除草剤に耐性を持つように開発されました。しかし雑草も除草剤に耐性を持つ「スーパー雑草」が現れているといいます。
 栽培面積にして世界の82%がGM大豆に、アルゼンチンでは99%が、日本最大の輸入元であるアメリカでは94%がGM大豆です。東アジア以外には大豆を食用にする文化がなかったのですから、GMであろうと他の食文化圏にとってそれは危機感も薄いかもしれません。

 日本の総大豆需要量の66%が油糧用(大豆油)ですが、搾られたその大豆油の90%が食用油として使われます。日本特有の食用油である「サラダ油」としてブレンドされたり、マーガリンやマヨネーズなどにも使われます。油糧用大豆はほぼ全て輸入されたものですし、遺伝子組換えの表示もされません。「じつは日本は世界で最もGM食品を食べている国」と一部でささやかれる理由がここにあるわけです。
 ちなみに、醤油の原材料についてはGM表示の義務はなく、味噌には表示義務があります。


 ここまでは大豆に関する現状ですが、この2018年3月31日をもって「種子法」が廃止されます。ちょうど一年前、安倍政権のもと、2017年3月23日「森友問題」籠池氏の証人喚問で国会が注目をされていたその陰で、その日その時刻の農林水産委員会で「主要農作物種子法廃止法案」が可決されました。
 「種子法」は、日本の主要作物である米・麦・大豆の優れた品種を安定供給できるよう、都道府県が責任を持つことが定められ、1952年に制定された法律です。これらの作物のさまざまなブランド品種も、それぞれの地域の自然環境や特性に見合った品種として、県と農家が一体となって栽培されてきました。
 この法律の廃止は、米・麦・大豆の種子も、他の作物同様にすべて民間企業に委ねます、ということでしょう。大豆については上に書いたような状態ですし、小麦でもすでに自給率12%ですから、あまり種子法の役目が果たされていないものの、米については現在でも自給率98%です。種子と自給率とが直接関係するわけではありませんが、すくなくとも、県によって管理するこの種子法の廃止によって日本の稲作は今後大きく変わってしまうことでしょう。

 「種を制するものは農業を制す」どころか、「種を制するものは世界を制す」とまで言われるようになりました。“モンサント法”とも 揶揄 ( やゆ ) される種子法廃止法案によって、日本もモンサントやデュポンなど巨大多国籍企業による〈種子戦争〉の真っ只中にいたことを知ることになりました。





 一年前の「瑞穂の国記念小学院」(森友学園)に端を発した問題は、「公文書改竄」発覚という重大な“事象”にまで発展した。公文書というのに、一部の人にとって都合がいいように、こっそり改竄されおり、その内容を信用できないということなのです。
(改竄の「竄」の字は、ネズミが穴にもぐり込むことを表し、「かくれる」「のがれる」といった意味があります。『漢字源』)

 公文書管理法の第一条(目的)を読んでみる。(下線は著者による)

第一条 この法律は、国及び独立行政法人等の諸活動や歴史的事実の記録である公文書等が、健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源として、主権者である国民が主体的に利用し得るものであることにかんがみ、国民主権の理念にのっとり、…(中略)… 国及び独立行政法人等の有するその諸活動を現在及び将来の国民に説明する責務が全うされるようにすることを目的とする。

 日本は“健全な”民主主義国家ではありませんでした。上記の大豆のことで引いてきた農水省のデータだって、もしかしたら嘘なんじゃない?と、いうことに。これでは国の政策そのものが、さらにはさまざまな事業、社会的活動すら信頼できなくなってしまうではないですか。それどころか、行政側自身が、自分たちの作った公文書の何が本当なのか嘘なのかわからなくなってしまいますよ。


 この3月で、大震災そしてメルトダウンが起きてから7年が経過した。

 堀 哲郎

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