キャベツ 〈82号 #22〉

キャベツ

 キャベツは、ほぼ一年を通して新鮮なものが手に入る野菜です。栽培上では、春播き、夏播き、秋播きがあって、土地によって気温も違いますし、収穫もずらして行われます。ここ山形もそうですが、寒冷地では初夏からが収穫の中心になります。また積雪の多い地方では真冬から春先にかけ、雪中キャベツ、雪下キャベツなどと呼ばれる、雪の中から掘り出したキャベツが出回ります。これがとても甘くみずみずしくて、その張り切ったキャベツに包丁を当てただけで、バリと音を立てて割れるものもあるぐらいです。

 このキャベツを使った、ウチの食卓には一年中欠くことのない食べ物があります。ザワークラウトです。
 ザワークラウト(Sauerkraut)は、ドイツ語で「酸っぱいキャベツ」。ドイツの漬物とされていますが、東欧・北欧・ロシア・フランスのほか広くヨーロッパや北米で食べられているものです。そのまま漬物として、また肉やソーセージといっしょに煮てもおいしいものです。
 ザワークラウトの酸っぱさは乳酸発酵によるもので、英語でいうところの漬物「ピクルス」の酸味も、もとはといえばビネガー(酢)によるものではなくザワークラウト同様に乳酸発酵で作られたものでしょう。日本の漬物では、ぬか漬けや京都の柴漬け・すぐき・千枚漬けなども乳酸発酵のものです。また、キムチがそうですし、よく白菜の漬物がすぐ酸っぱくなってしまうのも乳酸のためです。しかしこれらの漬物は、本来の乳酸菌が生きたままの商品として流通させることの難しい食品ですから、酢を使ったり加熱殺菌をして発酵を止めた状態で販売されています。

 乳酸発酵のことも知らなかったずいぶん前のことですが、ザワークラウトが簡単に作れることを知って、それ以来あれこれ試しながら作って食べてきました。このごろ発酵のことも知り安定した味になってきたので、今回紹介したいと思います。

 乳酸発酵といっても、野菜、この場合キャベツと風味づけのスパイスを入れて、塩で漬けるだけです。発酵のもととなる乳酸菌は、主に葉っぱについている自然の中の乳酸菌。しかしこの葉っぱには乳酸菌だけではなく、腐敗を進める細菌類もたくさんついているわけです。空気中にも料理をする人の手にも。その野菜を腐敗させず、長く保存しおいしく食べられるようにする知恵のひとつが漬物です。
 塩漬けは、塩で腐敗を進める雑菌を繁殖しないようにして保存する方法です。
 ザワークラウトは乳酸菌がつくり出す乳酸で、ほかの雑菌を抑制します。ここでの塩の役割は、塩味としてと、ザワークラウトの中で乳酸菌が優勢を得るまでの雑菌抑制の働きです。乳酸菌はある程度塩分のある中でも生きられますし、また、冷蔵庫ぐらいの低温でも徐々にですが発酵を続けます。


ザワークラウト

《ザワークラウト》

 キャラウェイがなければディル・シードでも。ほかのスパイス類の量は好みで加減してください。

 キャベツ1kgが、ウチの狭い台所でも容器の都合でも作るのにちょうどいいので、この量で説明します。

 キャベツを切ります。
 ウチでは5mm程度の繊切りにしますが、もっと細くても大きくてもかまいません。お好みですが、早めにキャベツから水が出て全体が空気に触れないようにしたいので、ある程度細い方がいいと思います。
 その前に葉を洗わなけばなりませんね。葉についた乳酸菌もきれいに洗い流してしまってはまずいわけですが、外側の土やゴミ、虫のついている葉はもちろん洗ってください。その内側の葉も気になるようならざっと洗ってください。ウチでは洗わず玉のまま切ってしまいます。

 切ったキャベツを密閉袋に入れます。
 商品名で恐縮ですが、ジップロックの大をいつも使います。途中、スパイス類も二、三度に分けて入れます。

 ボウルなどの容器に、100mlの水と、キャベツとこの水を足した重さの2%の塩を溶かします。
 密閉袋に入れた状態でキャベツの重さを量ればいいですね。洗った際の葉の水も入って、キャベツ全体の重さプラス塩を溶く水の分100gの2%の重さの塩です。
 全体に対する塩の比率を守れば、使う水は100mlでなくてかまわないということです。

 キャベツを入れた袋にこの塩水を加え、封をせずに袋の上から手に体重をかけるようにして、揉み込みます。食べたときの歯ざわりにも関わりますので、そう強すぎないように。
 水が出てきたら、空気を逃がすようにうまくジップロックの封をします。少し置くと水気も増えて空気も出しやすくなるので、再度やってください。
 袋に日付を記入して、水が漏れてきたりするのでバットなどに載せて、そのまま室内に置きます。

 この状態で何日ぐらい置くかですが、季節、置いた場所の室温によります。夏なら2日でいいときもあるし、冬だと1週間以上かかったりします。
 その間、冬でも一日一回は、夏なら一日何度か様子をみてください。
 まず、キャベツが空気に触れないよう、できるだけ袋から空気を抜いてください。ふつうなら重石をかけるところですが、袋の空気を抜くだけの方が出来上がりの歯ざわりがいい。
 しばらくすると、乳酸菌が働き出し、乳酸と炭酸ガスを発生させます。細かなブクブクの泡が出てきます。そのガスも溜まってきたら袋から抜きます。
 すこしキャベツの緑が変色してきます。袋を開けると、ちょっと匂いも変わってきます。箸でつまんで食べてみると、まだ酸っぱくはないけどなりそうな気配は感じるようになります。
 ここからもう少し置いて、酸味が出てきたら袋から保存瓶に入れ替えます。それからは冷蔵庫で保存します。
 手数が増えますが、最初から保存瓶ではなく袋で漬けるのは、生のキャベツでは嵩張ってしまうことと発生するガスを抜きやすいからです。密閉した保存瓶では、中のガス圧で漬け汁が外に吹き出したりします。
 溜まった漬け汁もだいじに瓶に移してください。
 まだ発酵を続けさせますので、やや庫内温度の高い野菜室に置くのがいいと思います。また、一日一回でもいったん瓶の蓋を開けてガスを逃がしてあげましょう。

 使う保存瓶も移すのに使うトングや箸も清潔なものを使いますが、保存瓶を特に煮沸殺菌などはしていません。心配でしたら瓶は煮沸して使ってください。
 酸味が出てきたら、ザワークラウトとして食べられますが、夏ならさらに1週間、冬なら半月ほど発酵が進めばおいしくなります。冷蔵庫の野菜室からふつうの庫内に置いても発酵は徐々に進みます。
 さらに時間が経てば、かなり酸味が強くなってきます。それはすっきりとした酸っぱさで、キャベツの甘みも感じられどこかフルーツのような、歯ざわりもシャキシャキで最高のザワークラウトが出来上がります。

 だいじなのは、腐敗につながる雑菌の繁殖より前に、乳酸菌の活動が活発になるようにすることですね。
 やはり夏の暑いときは、気温の高いところに長く置いてしまい、失敗することもありました。暑い時季は翌日から冷蔵庫の野菜室に入れれば、少し時間はかかりますが失敗はないかと思います。

 サラダ代わりに、パンや料理に添えて。ピクルスのようにサンドイッチに使ってもとてもおいしいです。日本ではあまり馴染みのないザワークラウトですが、現代ではずいぶん敷居の高くなってしまった発酵性の漬物としては、わりあい簡単に作ることができますので、ぜひやってみてください。
 パンやアルコール類や味噌に納豆……、生きた菌類の働きを利用して発酵させた食べ物を作る。ザワークラウトを皮切りに始めたばかりですが、面白いです。おいしいです。

〈今回の料理に使った食材の産地〉 2016 / 6
キャベツ:山形県山辺町、海塩:オーストラリア、キャラウェイ・シード:オランダ、ローリエ:トルコ、粒コショウ:ベトナム、唐辛子:山形県大江町


 堀 哲郎

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