青豆(枝豆) 〈67号 #07〉

青豆(枝豆)

 稲の穂もだいぶ黄色く色づいて、米の収穫もまぢかになってきました。
 その黄色い田んぼの隣に、青々と育ち広がって見えるのが豆の葉です。いまは、このあたりで青豆と呼ぶ、いわゆる枝豆の収穫期です。
 子どものころは、よく田んぼのあぜ道に一列ずつ植えられていたものでした。いまでは、米の生産調整のための休耕田に青豆が植えられ、東京など遠方にも出荷されるようになり、その植え付け面積も増えてきたようです。

 莢(さや)の中で十分成熟し黄色になった、豆腐や納豆、味噌醤油に使われる大豆が「黄豆」。成熟しても青い(緑)のが「青大豆」。成熟して黒いのがおせちにも使う「黒豆」です。山形の一部地域には生産量は少ないものの「紅大豆」もあり、すべて「大豆」の一種です。
 その大豆の、いってみれば未熟で柔らかいうちに莢ごと茹でて食べるのが「枝豆」です。山形では「青大豆」の栽培が一般的で、「枝豆」としてもよく食べ、総して「青豆」と呼んでいるようです。
 「青大豆」は保存し、柔らかく戻しては「ひたし豆」にしたり、みどり色の豆として料理に一年中使います。平らに潰した戻すのに簡単な「打豆」も「青大豆」です。

 この時期、枝豆を買いに行くと、さまざまな品種があることがわかります。だいぶ知られるようになった山形庄内地方の「だだちゃ豆」。「だだちゃ」は昔の庄内弁で「父ちゃん」、「だだ・ちゃ豆」の「茶豆」と掛けての名前でしょう。「茶豆」は上の「黄豆・青大豆・黒豆・紅大豆」の分類とは違い、莢のまわりに生えたうぶ毛が茶色い品種をそう呼びます。
 枝豆としてとてもおいしく、数ある青豆の中でも「だだちゃ豆」は地元でもなかなか高価です。 時期は少し遅くなりますが、山形の「秘伝豆」もおいしい。これは乾燥した青豆としても売られます。

 こういった野菜や果物の品種の名前を調べてみると、その種類の多いところにいろいろなネーミングがされていておもしろいのです。枝豆でおいしい品種であろう豆には、「湯あがり娘」だの「ゆかた娘」だの、食べるとき妙な気分になりそうな名前もあります。


 現在、日本で消費される大豆は、そのほとんどが輸入に頼っています。しかし、旬の枝豆や保存食としての青大豆は、このようにいまも、長く伝えられてきた品種とその改良種がだいじに作られおいしく食べられています。

 かつて一面黄色に染まった田んぼも、いまでは毎年さまざまな理由でさまざまに面積は変化しています。黄色と緑に塗り分けられた色鮮やかで美しい田んぼと畑を見ながら、これからもずっとおいしい米とおいしい青豆が食べられることを願わずにはいられません。

 その枝豆を食べます。
 まず、ウチの枝豆の茹で方です。普通は熱湯の鍋に枝豆を入れますが、ここで紹介するのは違った方法です。

 枝豆をよく水で洗います。莢に生えたうぶ毛はなるべく取ったほうがいいので、ザルの中で研ぐようにするといいようです。手が少々痛いですけれど。
 まだ水の入っていない鍋に洗った枝豆を入れ、そこに粗塩を加えます。100gの枝豆なら小さじ1強の塩でどうでしょう。
 ここで入れた塩で枝豆を研ぐようなつもりで手でしっかり揉みこみます。さきの水洗いで、そんなにうぶ毛が取れなくてもここである程度取れるはずです。ただ、もう水洗いしないので毛はそのまま鍋の中ですが。

 そこに茹でるための水を注ぎます。100gの枝豆ならカップ1/2(100cc)程度の水でかまいません。枝豆の量、使う鍋の大きさで調整が必要ですが、鍋の一番底の枝豆も半分程度しか浸からない水の量です。
 鍋の蓋をして火を点け、中火ぐらいで加熱します。水が沸騰し、いっときグツグツしたら蓋を開けます。下の方の枝豆は緑も濃くなっているはずです。
 色を見ながらざっとでかまいませんから、箸で下と上の枝豆を返します。また蓋をしてグツグツ。
 あとは蓋を取り、全体が揃ってきれいな緑になっていたら、枝豆をひとつ食べてみて、いい具合ならザルに上げます。
 すぐうちわであおぎ、枝豆の表面の水気を飛ばします。

 これで出来上がりです。
 冷たい鍋に火を点けてから、ザルに上げるまで2分半から3分程度です。

 枝豆の塩はある程度強いほうがおいしく感じるようです。しかし、茹で上がってからあとで塩を振ると、直接口にする莢の塩だけがだんだん気になってきます。かといって、茹でるたくさんのお湯に相応の量の塩を入れるとなると、ずいぶん大量の塩を投入しなくてはなりません。
 この方法なら、少ない水で入れる塩の量も少なくて済みますし、おいしく茹で上がるようです。一度やってみてください。

 この枝豆を食べる料理といえば、「ぬた(ずんだ)」があります。
 仙台発信の「ずんだ」が一般的になりましたが、この食べ方は東北地方ほぼ全域でなされ、山形のこのあたりでは「ぬた」といいます。
 全国的には「ぬた」は酢みそなどを指しますが、山形ではこの枝豆のすりつぶしたものを「ぬた」といい、「ぬた餅」はもちろんのこと「ナスのぬた和え」や「インゲンのぬた和え」など、いろいろな食材にあわせて「ぬた和え」にしていただきます。


 枝豆ペーストですね。作り方を紹介します。
 まず、枝豆を茹でますが、上で紹介したそのまま食べる枝豆より柔らかめに茹でてください。あとで調味しますから、色よく茹でるための塩だけでかまいません。
 茹で上がった豆をはじいて出し、外側の透明な薄皮は取り除きます。手間が少々かかりますが、この皮を取るとおいしいぬたになります。「ナスのぬた和え」に使う場合などはそう気にならないのでそのままでかまいません。

 あとはすり鉢で、ウチの場合はフード・プロセッサーで調味をしながらすりつぶして出来上がりです。
 調味料は、砂糖(豆の重さの1/5程度を目安にあとは好みで)、塩を少々、それとウチでは煮切りみりんで風味と固さも調整します。

 子どものころはすり鉢を押さえる手伝いをしながら、砂糖を足したり、塩を足したりの味見の手伝いもしました。
 経験上、この味見のときのぬたがいちばんおいしいのです。味見でなくなってしまわないように気をつけながら、気に入った味に仕上げてみてください。

 今回は「ぬた団子」にしていただきました。


── 山歩きをしていると、自然とキノコに目がいってしまう。
1年半が過ぎた。
 堀 哲郎

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