レンズ豆 〈77号 #17〉

レンズ豆

 このページにときどき出てくる豆。今回はレンズ豆です。
 日本ではあまり食べませんが、世界の多くの国でとてもポピュラーな食材となっている豆です。
 これまでここで取り上げた食材の中では、最も古い歴史を持っていて、ギリシャで発掘された洞窟からは、石器時代にもレンズ豆が作物としてあったことが分かったそうです。旧約聖書の「創世記」の中にはレンズ豆の煮込みの記述がありますし、農作物として最も古いもののひとつだと思われます。
 起源はメソポタミア地域とされ、乾燥にも強く、世界の広い地域に伝えられ、栽培されてきました。現在の生産量は、1位のカナダと2位のインドの二つの国を合わせると300万トン強、世界の半分以上を生産しています (2013 : UN Food & Agriculture Organization)。消費量ではインドが最も多く、世界の生産量の4分の1を食べているそうです。

 レンズ豆というぐらいですから、形が凸レンズに似ているのですが、正しくはレンズがレンズ豆に似ているのです。レンズは、レンズ豆(Lens culinaris 羅)からその名を借りて名付けられました。和名ではひらまめ(扁豆)と呼ばれてきました。
 種類によって色はさまざま、大きさは3ミリから9ミリほど。今回使った豆は、5ミリぐらいの大きさで、外皮は茶色、その皮を取ると中はオレンジ色をしています。
 煮込み料理、カレー、スープ、サラダなどで食べられていますが、栄養価も高く、ベジタリアンの料理にとってもだいじな材料となっているようです。あるアメリカの健康専門誌が、2006年に選んだ世界の五大健康食品というのがあります。韓国のキムチ、スペインのオリーブ油、ギリシャのヨーグルト、日本の大豆、そしてインドのレンズ豆だそうです。

 長い間人間に重宝がられてきたのは、その調理のしやすさが理由のひとつ。
 ほとんどの乾燥した豆類は、調理を始める前に長い時間水に浸し、まず豆を「戻す」ことが必要です。また火の通りもよくありません。しかし、このレンズ豆は戻さなくてもいいし、短時間で火が通り食べることができるのです。じつに手軽に調理のできる豆です。


 ウチではカレーやスープにもよく使いますが、気に入りはレンズ豆のフレンチサラダ。
 フランスでよく使われるレンズ豆は緑のものですが、何色でも輸入食料品店に置いてあるものを使って、一度作って食べてみてください。


《レンズ豆のフレンチサラダ》

レンズ豆のサラダ

レンズ豆を洗います。
もし時間があれば、すこしでも水に浸しておくと火にかける時間がさらに短くて済みます。
たっぷりの水で茹でます。沸騰したら弱めの火にして15〜20分。
ニンジンとタマネギも最初からもしくは途中から同じ鍋に入れて、気に入った固さに茹で上げます。ニンジンとタマネギは切らずに入れても半分ぐらいにして入れてもいいです。
途中、少し塩を入れてみてもいいし、好みでベイリーフを1枚入れて香りづけをしてもいい。
豆の大きさや状態でやわらかくなるまでの時間も変わります。食べてみながら調整してください。

ニンジンとタマネギは鍋から引き上げて冷まします。
レンズ豆も適度な柔らかさになったらザルに上げます。

冷ましているあいだに、ドレッシングを用意します。
オリーブオイル、ワインビネガー、粒マスタード、塩、コショウ。
お好みの味で、やや量が多いかなという程度をよく混ぜ、ボウルなどに用意してください。

ニンジンとタマネギの粗熱が取れたら、荒いみじん切りにします。
トマトも、できれば湯むきしてタネのところを除き、粗みじんに。
なければトマトは入れなくともかまいません。

あとは、ゆで汁を切ったレンズ豆と、切ったニンジンとタマネギとトマトをドレッシングの入ったボウルに投入、全体を和えて調理は終了です。
味のなじむまで冷蔵庫へ。

今回は、新タマネギのおいしい時季でしたので、タマネギは茹でずに、生の新タマネギの粗みじんを水にさらし、辛みを取ったものを入れました。
最後にレモン汁も少々。

 フランスのお惣菜、レンズ豆のフレンチサラダ。粒マスタードを使うあたりがフレンチなのだと思います。他の地域のレンズ豆のサラダもそう大きく変わらないようで、その地域で使われるハーブやスパイスに変えればあれこれエスニック料理も楽しめます。
 サラダというより、おいしい豆料理の一皿という感覚でバクバク食べられます。 翌日、しっかり味もなじんできてからが、またおいしいのです。

 さて、ここでレンズ豆のサラダを食べながら気になるのは、豆を使った日本の伝統料理のこと。なぜ日本ではレンズ豆は作られなかったのか。日本にもある他の豆で、なぜ甘くない豆料理はないのか。大豆を使った五目豆と豆の入ったご飯ものぐらいしか、甘くない豆料理として思い浮かばないのです。もちろん大豆を使った加工食品はさまざまあります。味噌・醤油・豆腐・納豆……。しかし豆そのものを調理して食べる料理は少ないのです。そんな日本料理の嗜好が、レンズ豆の入り込む隙のなかった理由かもしれません。
 でも、日本の伝統的な豆料理で、忘れてはならないものがあります。「ひたし豆」です。
 以前のこのページ、「ひよこ豆」や「青豆(枝豆)」のときにも少し触れました。日本の豆のサラダ「ひたし豆」も併せてここに載せておこうと思います。


《ひたし豆》

ひたし豆

青大豆は一晩水に浸しておきます。
ふっくらと豆が戻ったら、新しい水で中火に掛けます。
沸騰してきてから15〜20分。アクを取りながら、好みの固さになるまで。
途中、塩を少し加え、豆にわずかに塩味を付けてもいい。
火に掛けるのをもっと短い時間にして、火を止め鍋に蓋をしてそのまましばらく置いてもおいしく上がります。

つけ汁は昆布でとっただしと、塩、しょうゆ。
すぐ使える瓶入りの市販のだしでもかまいませんが、醤油がおいしければだしなど入れなくても十分おいしいものです。あまり塩を強くせず薄味で、豆がすっかり浸るだけの量を用意してください。
塩が薄かったら後で調整してもいいので、最初は薄味で。そのほうが豆の味が感じられます。

タッパーなどの容器で、つけ汁に湯を切った豆を浸し、冷蔵庫に入れます。
半日程度は浸してから食べてください。

 ひたし豆は北国の郷土料理なのでしょうか。ひたし豆にする青い乾燥大豆は、日本中どこにでもあるというものでもないようです。以前、東京の乾物屋さんで長野や新潟、東北各所のさまざまに名の付いた青大豆が並んでいるを見て、どんな味の違いがあるのかそれぞれ食べてみたいなと思ったものでした。ここ山形でも何種類かの青い大豆がありますが、使った「秘伝豆」は明るい薄緑色で甘みのあるとてもおいしい豆です。

 人類の長い営みの中で、ある作物が絶えることなく作り続けられ、そしてその料理のさまざまな方法が連綿と伝えられてきた。いま、私はここに居て、自然や先人たちのその恩恵にあずかりながら、生きつづけるために料理を作る。その作物やレシピを通して、イメージは時代や場所を縦横に飛び回り、自然の不思議さやさまざまな地域の先人たちの知恵に出合う。
 最終的には、単にイメージとしてではなく、日々の食事として自らの腹の中に収まり生きつづけていけること。なんと楽しくすばらしいことか。
 料理はイメージだけではない、目の前にある「いま」の、自分の立つ「この場所」を、その作物や食材を口に入れながら知り、そして生きることを考えることでもある。
 現在の地球上の食に関するさまざまな問題は、目を覆いたくなるような、いや、口を覆いたくなるような状況にある。自然や地球上の生き物や自然と共に生き働いてきた農民を冒瀆しつづけて、これからの子どもたちの健康はいったいどうなっていくのだろうか。

〈今回の料理に使った食材の産地〉 2015 / 3
レンズ豆:インド ニンジン:山形県山辺町(雪下人参) タマネギ:長崎県産新タマネギ トマト:熊本県 ベイリーフ:トルコ わさび菜:山形県山形市 オリーブオイル:イタリア ワインビネガー:フランス 粒マスタード:フランス製 海塩:オーストラリア 黒コショウ:マレーシア レモン:愛媛県
青大豆:山形市(秘伝豆) 昆布:北海道 醤油:山形市

 堀 哲郎

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