ニンジンの葉 〈66号 #06〉

ニンジンの葉

 地中のニンジンがまだ大きくなる前のニンジンの葉です。
 山形のこのあたりではニンジンの「おろぬき」といいます。山形に限った言葉ではなく、このごろはあまり耳にしない言葉になりましたが、動詞形「おろぬく」は漢字で「疎抜く」と書き、「うろぬく」ともいうようです。「間引く」ことです。
 畑に蒔いた種のままでは密生して大きく育たないので、「おろぬいて」適度な間隔を作り野菜を大きく育てる工程です。最近はこういった野菜を「間引き菜」と呼んでいるでしょうか。

 東京を離れ山形に戻って嬉しかったことのひとつに、八百屋の店頭に大きくなる前のさまざまな野菜の「おろぬき」が並ぶことがあります。どれも新鮮で柔らかくそして安く売られています。
 こういったものは遠方への流通には向かず量も少ないので、それぞれの土地でそれぞれの調理法で地元の人たちの食卓に上っているものがほとんどでしょう。
 さまざまな種類の「おろぬき」を食べることができますが、もっとも多く出回るのがまだ5センチほどの小さな大根のついた大根葉です。しかしこれは販売量も多いし、「おろぬき」ではなくて葉を食べるために栽培されているのかもしれません。

 3、4センチに切って軽く茹でた大根葉に油揚げと鷹の爪を入れて、ごま油などでで軽く炒めたあと、醤油とだしで煮びたしにします。大きくなった大根の葉でも同じように煮びたしを作りますが、若い葉の煮びたしは柔らかくてとてもおいしいものです。
 小松菜の「おろぬき」はそのままでサラダに。

 そんな「おろぬき」のなかでもほんのいっときしか並ばないのが「ニンジン葉」。なぜ並ばないかを想像するに、大根と違い、このか細い葉では長持ちせずすぐしなびてしまうこと。そもそもどうやって食べるのかもよく分からないかもしれません。
 なかなか店頭に並ばないニンジン葉ですが、そのニンジン葉の「おろぬき」を食べたいがゆえに自宅の菜園でニンジンを育てているという人をわが母をはじめ何人か知っています。

 ニンジン葉のその味は、ニンジンがあの味ですから葉もややくせのある香りの強いものです。くせのある山菜同様に天ぷらにしてもおいしいかと思います。
 ここで紹介するのは「ニンジン葉の切り和(あ)え」です。


 まず味噌を焼きます。アルミホイルに味噌を均等に薄く塗りオーブントースターやグリルなどで焼きます。木べらに味噌をのばして火であぶるほうが風情もあるし、うまくでき上がります。
 生の味噌のままだと水分が多いので水分を減らすのが第一の目的、もちろん焼味噌の風味も立ちます。

 ニンジン葉は熱湯で茹で水にさらします。固く絞り適当に切ったあと、まな板の上で焼き味噌といっしょに包丁で細かく刻み混ぜ合わせます。最初から味噌の量を多くせず、好みの味噌加減で。

 炊きたてのご飯にのせて食べます。

 「切り和え」という調理法はあまり一般的ではないのでしょうか。
 山形では、香りの強い山菜などはよく切り和えにして食べます。「うこぎの切り和え」はとくにおいしいものです。「うこぎ」は山形内陸地方独特の食材で、主に春先の枝から若葉を摘んで焼き味噌と切り和えにします。山形では食べるために育ててもいますが、「うこぎ」自体は、関東でも里山を歩いたりすると自生しているのを目にするごく普通の植物です。

 このごろよく知られるようになった山形の「だし」(正確には「だす」)があります。これも、なす、きゅうりの夏野菜とシソ、みょうがの香味野菜をいっしょに刻んで、味噌ではなく醤油で味をつけた切り和えですね。
 この「だす」のつくりかたは、とにかく畑からもぎたての野菜をそのまま細かに刻んで醤油をかけるだけです。夏の盛りの新鮮な野菜の甘みと香りが醤油と一体となったところを、やっぱり湯気の立ったあつあつのご飯にかけていただきます。
 豆腐にのせたり、そうめんのつゆに合わせたりとも紹介されますが、「だす」は熱い白いご飯の上にのってはじめて完成するものと考えます。

 ニンジンの葉のとくに若い「おろぬき」は、畑で栽培している方から分けてでももらわないと手に入れることはむずかしいかもしれません。大きくなってからでも、もし葉付きのニンジンが手に入ったら、硬い茎の方は使わず葉先のほうだけを使って「切り和え」を作ってみてはいかがでしょう。

 アフガニスタン原産のニンジンが日本へ伝えられたのは16世紀。そのころから葉も食べていたらしいが、明治以降は一般に根だけを食べるようになったということです。
 食べていたものを食べなくったのは、どんな理由からなのでしょうか。こんなにうまいのに。


── この春、母もワラビのアク抜きに灰汁(あく)ではなく重曹を使った
 堀 哲郎

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