昨年、栽培して食べてみたかったアーティチョークの種を蒔いた。そして2年目の今年の5月から6月にかけ、大きく育ったひと株に野菜として食べる花の蕾が3つ付いた。
昨年からその葉の大きさに驚きながら、どんなものが育つのか楽しみに見ていました。高さも1メートルを優に越し、ついに、丸い蕾が。松ぼっくりにも似た、握りこぶしほどの大きさになったアーティチョークはじつに異形な食べ物です。2つを食し、1つはどんな花となるのかと咲かせました。
地中海地域生まれで、植物としてはアザミの一種の多年草です。冬の寒さにも強く、今年も春先から伸びはじめ、あるとき気づいた小さな丸い花芽が日に日に大きく、高く伸びてくる。収穫のタイミングが難しかったが、まずはパスタにして食べることができました。
なぜ、これまで手にしたことも、まして食べたこともないアーティチョークを育ててみたかったのか。そのきっかけは、美術に興味を持ち始めた若いころ、古い西洋の油絵の中にその姿を見たことからです。人気となり数多く描かれた16〜17世紀オランダの静物画のモチーフとして頻繁に登場します。
Jacob Foppens van Es アーティチョークのある静物画(リンク先の画像はクリックで拡大表示されます)
アーティチョークの断面はこちらの絵で見てください。
Osias Beert (I)
これはいったい何? 食べ物ならどうやって食べるのか。不思議に魅力的な絵の中の、その異様な植物が気になっていました。その後、それはアーティチョークといわれる巨大なアザミの花の蕾で、博物図鑑や海外の料理レシピによく出ていることも、日本では高級な食材としてなかなか口に入らないものとも知りました。
アーティチョークの歴史は長く、古代ギリシャでもすでに食用として栽培されていました。その姿だけでなく、調理方法もその味も少しばかり特異なアーティチョークは、現在に至るまでなにかと目を引き、あれこれの逸話に事欠かない野菜となりました。
ギリシャ神話では、ゼウスに誘惑され女神になりかけた美しい人間の女性キュナラが、こっそり人間界に戻ったことからゼウスの怒りを買い、地上に投げ落とされ、アーティチョークに変えられてしまった。宮廷料理の高級食材だった。男の子の誕生を確実にする効果があると信じられていた。媚薬として扱われ男性しか食べられなかった。
アメリカには19世紀に持ち込まれた。1920年ごろの禁酒法時代とマフィアの活動はよく知られているが、同時期にはアーティチョーク市場を独占し、「アーティチョーク戦争」を仕掛けアメリカ全土で暴利を貪った「アーティチョーク王」といわれたマフィアのボスがいた。ニューヨークでは禁酒法ならぬ禁アーティチョーク令が宣言されたことさえあるという。
さて、このアーティチョークを食べるわけだが、これがなかなか一筋縄ではいかない食い物。鱗のような外見でいかにも堅そうですが、まさにその通りで、花の萼にあたる鱗のような下部の緑の硬い緑片ははがし、上部も萼の先は固く尖っているので、全体の上1/3は切ってしまいます。さらに縦に切って、その中心にある咲いたら花びらとなる綿毛が集まったところは食べられないのでスプーンで掻き出します。切ったところはすぐ黒く変色するので、レモン水に浸けます。
この下処理が済んで、固くさえなければどのようにしても食べられるので、さまざまな調理のしかたで食べることができます。歴史的にも地域的にも多様な食べ方や加工法が存在します。
ウチでは、アーティチョークのショートパスタにしましたが、まず上記の可食部と皮を剥いた茎を柔らかくなるまで30分ほど茹で、適当な大きさに切り、ベーコンと炒めてソースを作り、パスタと合わせました。
アーティチョークのパスタ
気になるところはそのアーティチョークの味です。おいしいはおいしいのですが、どんな味かを伝える言葉が見つからない味なのです。口に入れたらすぐそれとわかるような強い味はありません。このあたりでよく食べる春の山菜のように、やや癖のある風味でもありません。若干の甘さと苦味を感じる上品な味です。といってその味に似た他の食材も思いつかない独特な味です。
その味、風味を表した言葉を拾って書き出してみます。
「素朴な風味とナッツ味」「セロリのような素朴な風味や味」「土っぽい風味」「カブのような味」「生のアーティチョークは苦味」「ゆり根やイモやタケノコ、ブロッコリーの茎」「ソラマメに似た味わい」「クリーミーな食感」「すべての野菜の中でもっとも美味しい」
これで想像できるでしょうか。調理方法によってもその印象は変わるようですし、やっぱり言語化しにくい味ではあります。また、含まれる成分がアーティチョークを食べた後に口にしたものを甘く感じさせる働きがあるらしく、水は甘くおいしく感じ、高級ワインはまずくなるという。
もう一つその成分の特徴。アーティチョークを使ってチーズが作れるといいます。チーズを作るには、ミルクを固めるための酵素(レンネット)が必要です。現在のチーズは動物性のレンネットを使いますが、古代ローマ、古い時代には植物に含まれる酵素で固めていました。主にイチジクが利用されたようですが、アーティチョークでも可能といいます。
その姿ばかりではなく、その味についてもなんとも特異で不可思議な存在で、長きにわたって人々が魅入られてきた野菜であることも、少しばかり分かった気がします。
来年は蕾の付く数も増えるはずです。株の数も増やしてアーティチョーク料理を楽しむ魂胆でおります。
お気に入りの書物、プリニウスの『博物誌』(西暦77年・ローマ)の中で彼はこんなふうに書いています。
「われわれは土地に生える怪奇物をすら大食の目的に適わせ、そして現に四足獣がすべて例外なく尻込みして触れようとしない野菜を栽培しているのだ」(雄山閣・1986年)
当時、いまのアーティチョークの元となるアザミの栽培で高額の儲けを得ていた人たちがいたことを指しています。プリニウス自身も好んで食べていたようです。
しかし言ってみれば、現在口にしている食材などすべてが怪奇物と称されるでしょう。遺伝子組み換えであったりハイブリッド交配作物であったりするのですから。
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